2017年6月5日月曜日

団塊世代が考える「間違いだらけのヤマセミ保護」 Wrong and lazy wild bird crested kingfisher protection which baby boomers consider.

 この3月に人吉市が第二の市の鳥に山翡翠(ヤマセミ)を指定した。この事はこのブログ上でも数年前から数回取りあげバックアップしてきたつもりだ。勿論個人的にも写真集を自費出版し、地元の方々に無償配布する事で影ながら応援してきた。
 基本的には地元にお住いの野鳥観察者・研究者の方々が、その稀有な存在である地元のヤマセミを「ぜひ市の鳥に!」と運動を続け10年掛かりで実現したものだ。JR九州が観光特急列車「かわせみやませみ号」を走らせるから急遽決まった訳では無い。その事もこのブログで取りあげた。
ご参照 http://yamasemiweb.blogspot.jp/2017/03/a-crested-kingfisher-was-established-by.html

 勿論ヤマセミが市の鳥に指定されるまでは、実際人吉市に住んでいる市民ですらあまりその存在を知らなかった人の方が多いと聞く。市の鳥になった今でさえ、未だに観た事が無いという方も多い。

 実は、人吉市内でも注意深く観察し、ヤマセミの活動時間や活動エリアを学ばねばそう簡単に出遭えるものではない。毎日ヤマセミの生態情報を送って下さる人吉在住で、此処10年以上観察をされている数名の方々ですら、この数日間は殆どその姿を見かけないという程だ。
 理由は今年は春先の低温で繁殖が遅れている事と、6月1日鮎漁の解禁で釣り人の姿が一気に増えたからだろうと視ている。しかしこれは例年通りの事で、数週間もすれば慣れてヤマセミはまたいつものポイントに戻ってくる。環境への順応性は非常に高いからだ。
 しかし、中には心配性な方も居られるようだ。地元人吉の新聞に約1か月程前、こういう記事が掲載された。
今年の愛鳥週間の記事の一つとして掲載されたヤマセミに関する記事。

この記事に書かれた内容が非常に気に成った為、此の新聞社への問い合わせコーナーから問い合わせてみた。問い合わせたメール内容は以下の通りだ。
【 お問い合わせ内容 】  「5月11日の記事でヤマセミを近くで撮影したり、見ようとする人などがヤマセミの生息環境に影響している状況・・。とは具体的にどのくらい(何メートル)の近くで撮影したり見ているのでしょうか?影響(繁殖が失敗したなど?)とは具体的にどういった影響が出ているのでしょうか?保護に向けて・・・。の保護とは具体的にどういうことを考えておられるのでしょう?同時に監視体制を強化とはどういう内容でしょうか?抽象的あるいは概念的では無く具体的な内容を教えていただけると助かります。」

 数時間後に「お問い合わせありがとうございます。お問い合せ内容を確認次第、返答いたしますので今しばらくお待ちくださいますよう、よろしくお願い申し上げます。」との返信が来たのだが、未だに返事が来ない。もうすぐ1か月が経つ。

 正直に申し上げて、たぶん返答は来ないと踏んでいる。何故なら、この記事に関係した方々はヤマセミの生態や人吉市内での生息状況に関して殆ど詳しくご存じないとみるからだ。
 人吉のヤマセミに関しては4年前から始めたこのブログにおいても幾度もその生態や市内での生息状況、天敵、人間との関係をご紹介してきた。
 それも、毎日ヤマセミの生態を観察し、生息状況を見守っておられる人吉市内在住の古江さん・辻正彦先生(内科・循環器医師)から詳しいご教授と情報提供を毎日のように受けて初めて出来ている事だ。

 ヤマセミを大切にしようという精神はもちろん大賛成だ。それを願っているからこそ人吉市の鳥に成った事で、色々な方々に人吉市の宝物である事の認識と誇りを持って頂けると喜んでいるのだ。

 しかし、野鳥保護、ヤマセミ保護は自宅のペットを可愛がる事とは全然違う。そもそもヤマセミ自身、自分たちが市の鳥に成った事や野鳥愛好家たちが出遭いたい野鳥のベストテンに上げて注目されている事など知る由もない。むしろ、獲物が多くて繁殖するためのシラス壁が多く、昔から棲んでいた最高の環境の人吉界隈に、後から入って来て街を造った人間達が少々やりにくいなぁ・・程度の認識だろうか?

 本当にヤマセミを保護したいと思うのであれば、きちんと野鳥生態を調べもせず「こうだろう、こうに違いない!」という勝手な憶測と自分の概念で物事を決めつけ論評しない事だ、もっとヤマセミの生態・生息状況を学ぶ事だ。地元人吉には日本一のヤマセミ通が何人も居られるではないか?訊けばよい事だ。

 そうすれば、ヤマセミ観察の特別なルールやマナーなどを設ける事など意味が無い事くらいお判り頂けよう。大体ヤマセミだけ特別扱いしてどうする?人吉の球磨川には他にも野鳥は沢山居るのだ。特別なルールなど設けて一体誰が監視するのだ?ルール・規則は罰則を伴わねば誰も守らない事くらい、自分の胸に手を当てて考えれば誰にでも在ろう?

 そんな新たなルールやマナーを設けてヤマセミを保護できるのであれば、数年前、人吉城址前でカヌーの国体競技を実施した際、全国からの参加者たちが、其処が繁殖期5~7月の間ヤマセミの子育ての領域である事を知らず、逃げまどうヤマセミに傍まで迫り脅威を与えた事実をどう見るのだ?
 これは、その翌年の繁殖期5月後半の画像だ。左上から下がっている木の蔓は人吉城址の植物だ、カヌーの訓練は更にその城址側ギリギリを漕いで進まなければならいのだろうか?まさにメスのヤマセミがカヌーイストの真横を必死に逃げている。
 その日ヤマセミを観察していた方(実名は控える)が、練習中のカヌー関係者に左岸にはあまり近寄らないで欲しいという要請をしたのだが。それへの当てつけとしか思えない行為だと思っている。彼が高校生でない事は判っているし、連写で画像データが残っている。2016年度
普段はこの画像のカヌーが進む城址側ギリギリを飛んで生息するヤマセミが球磨川の中央部まで迂回して出てこなければならない。天敵に襲われる機会も増える訳で、この行為は野鳥保護のまるで逆を行っているのだ。全国でこのブログをご覧頂いている皆様はどう思われただろう?

こちらも、左岸・人吉城址にあまりに近いエリアを進む為、幼鳥が逃げ飛んでいる。人吉の高校のカヌーチームが強くなるにはここ(ヤマセミの生息領域)で練習しなければならないのだろか?ほんの少し5~60m程右岸側で漕いで練習するのでは駄目なのだろうか?この部分も連写で撮影データが残っている。
 
 これらの影響で2年間其処での繁殖行動が無かったことをどう見るのだ?詳細な観察データや画像が残っている。
 繁殖エリアの傍まで迫るカヌーは全国でも強豪の人吉の誇りだから良くて、外来のカメラを持った野鳥観察者・撮影者・観光客にはルール・マナーを設けて規制・監視するつもりなのか?人吉のメディアはこれをどのように捉えるのだろう?

 写真撮影者が一度に100名来ようが、近くで観ようが、人間の視力の5倍以上の視力を持つ野鳥の方から安全な距離感を保ち、脅威と視れば飛び去るなどして自衛するに決まっている。野鳥を少しでも知れば当たり前の常識だ。カラスや猛禽類、アオダイショウと言った天敵に比べればカメラを持った堤防や橋の上から見るだけの人間などその比ではない。やたらと簡単に「保護」という言葉を振りかざす人間ほど、自然界で人間が一番偉いと思い上がっているのだ。
繁殖期のカラスは一番危険だ。何に対しても攻撃する。2014年

猛禽類はヤマセミの採餌した獲物を狙う。2016年

一番の天敵は巣穴に入り卵や雛を補食するアオダイショウだ。2014年

巣立ち直前の雛すら呑んでしまう。10mの巣穴から親鳥の攻撃で落下し、頭を打ったアオダイショウを解剖して、呑まれたヒナの観察データを得た。2014年

ヤマセミはそれほど人間を気にしてはいない。人吉エリアのヤマセミの巣がどこに掘られているかご存じだろうか?15カ所を調査したが、そのほとんどが、人間の出入りする環境の「シラスもしくは赤土の壁」に掘られている。
 一番近いのはなんと民家の脇15mの距離だ。ゴミ収集場のすぐ上に掘られている。その他民家からの距離を観てみると50m、80m、人や車が行き交う道路の脇、工事関係資材置き場など、山奥の人里離れた遠い場所では無い。これが何を意味するかもうお解りだろう。既に人吉市界隈のヤマセミは人間と共存・共創しているのだ。猛禽類やカラスを追い払う人間の傍の方が繁殖するためには安全だと知っている。だからこそ人吉市のヤマセミは全国でも非常に珍しい存在なのだ。

 これで判るとおり、カメラを持った人間が近づくとか、見物人が増えるとかで生態に悪い影響を与えている等という事実は全く無い。

 野鳥の団体に属しているから、当然野鳥に関しては誰よりも詳しいと思うのは大間違いだ。大部分の方々は野鳥が好きだから属しているのであって、メンバーに成ったから突然野鳥に詳しくなる訳では無い。ましてや団体に属したという事で、何か特権を持ち一般の方々に対し上から目線で何か野鳥に関して指示・指導できる立場になった訳でも無い。

 もちろん勘違いしないで頂きたい、熊本県内で野鳥関連の団体に属する方の中には理学系で環境関連の博士号をお持ちの方、野鳥の動画を撮らせたら日本一の方、定点観測で球磨川流域の野鳥の調査報告書を自費出版された方など沢山の野鳥研究者・野鳥通がおられ、筆者も懇意にさせて頂いている。

 この際、既に人吉市内で如何にヤマセミが人間と共存、共創しているか、いまさら新たなルールやマナーなど設けても意味がない証拠画像をご紹介しよう。
球磨川下りの舟、ほぼ10m以内に居ても逃げないヤマセミ。毎日の事で慣れている、人間との距離を見切っているのだ。

高校生のカヌー部練習時(2時間程度)は、ヤマセミは上流部へ逃れて人間とうまく共存共創している。これであれば何の問題はないのだ。

 同じカヌーでも川の中央部で練習すれば幼鳥ですら脅威に感じないで岩の上でじっとしている。これであれば何の問題もない。最初の3枚のカヌーのように城趾側ギリギリをヤマセミを追い散らしながら進んでいる画像との差がお判り頂けよう。ほんの少しの事でヤマセミ保護は可能なのだ。2017年度





これら人吉市内で人間と共存しているヤマセミ。本当にその保護を考えるのであれば観光客など人間側の規制などするのではなく、ヤマセミの生態を良く学び、人吉市内でより生息しやすい環境を整えてあげるだけで充分なのだ。この辺りは次回具体的にその解決方法をいくつか提案しよう。 

これこそ、現在早稲田大学での研究内容「人吉界隈におけるヤマセミと人間の共存共創」その物だ。