2015年3月23日月曜日

「団塊世代のヤマセミ狂い外伝 #101.」 ヴァン ヂャケットの社内エピソード、一社員から観た石津謙介社長.その2.」

 VAN99Hallでのパフォーマンスに関しては昨日のブログ通りだった。繰り返すが、大勢の社外の人々の前の石津謙介社長と、我々社員の前での石津社長は随分イメージが違っていた。社内ではアパレル・トップ企業の創始者にして社長。外では個人としてファッションを中心とした文化風俗のプロデューサー、ファッションデザイナーとしての存在。これらを見事に使い分けていた。

 石津社長のこの文化風俗のプロデューサーとしての活動の一環に、フジテレビが1960年代に放送していた「勝ち抜きエレキ合戦」と言う視聴者参加型バンド・コンテストの審査員が在った。勿論筆者はまだ高校生。テレビでその審査の様子を見るだけだったし、もちろんまだその頃はこの石津社長の部下に成るなどとは夢にも思って居なかった。
勝ち抜きエレキ合戦 Google画像

  主にバンドメンバーのステージ衣装(=もちろん当時はビートルズやベンチャーズもネクタイをしてステージに立つのが普通だった。)の批評でポイントを与えていたような記憶がある。

初期のローリングストーンズ Google画像

 シャドウズもアニマルズもあの不良の塊と言われたローリングストーンズですらネクタイ姿でステージに立った時代なのだ。当時のレコードジャケットを視ると良く判る。
数少ないストーンズのLPジャケット・コレクション
 
 石津社長はヴァン ヂャケットの社長と云う肩書きではなくファッションデザイナーとしての肩書きで審査員席に座り、出場バンドの衣装・ファッションについて詳しく吟味していた記憶がある。
 そういった著名文化人としての石津社長だったが、社内では勿論尊敬と畏敬の念で全社員から慕われていた。此処に面白い話がある。

 この話は特別の展示会や社内訓示のケースではない。ごくごく普通のある平日の昼休みの話だという。勿論人から聴いた有名な話だ。場所は別館356の営業フロア、時間は昼休みが始まって15分ほど経った頃だという。男子社員は昼休みに限らず常日頃から担当上司に「デスクに等座っている暇があったら、自分が担当の得意先・売り場に行くなり外回りをしろ!」と言われているので朝から社内には居ない。昼休みに等居る訳も無い。したがって残っているのは女子社員ばかりという状況になる。昼休みに入って15分経った頃といえばお弁当を食べている真っ最中だろう。

 突然デスクの電話が鳴った!皆弁当を頬張っているから直ぐには出られない。勿論先輩社員、年配のお局様(ヴァン ヂャケットに居たかどうかは知らないが)は絶対に受話器を取らない。どの会社でも同じだろうがベテラン女子社員はそこそこの男子社員など蹴飛ばすほどの肝が据わっている。時々掛かってくる勧誘の電話や悪戯の電話に対する対応等マニュアル以上の経験を積んでいた。普通は当然新米が取るのだが、この日に限って鳴った電話の傍には年季の入ったベテラン女子社員しか居なかった。
75年当時はプッシュホン時代に入っていた。

 年季の入った女子社員はおもむろに受話器を取った。もう受話器を耳に当てるか否か、周りの者たちに聴こえるような大声が受話器の中から響いたという。「何をやっているんだ!どうして早く出ない?」。電話の着信音を何度も聞かされてイラついたのだろう、あるいは相当急いでいたのだろう、大きな声で怒鳴ったのだ。受話器を思わず耳から離したベテラン女子、一瞬にしてこの相手を良くあるクレームかいちゃもん付けの電話だと判断をした。ナメラレテはいけないと思ったのだろう深呼吸して声を落としてこう言ったらしい。「アンタ誰ぇ?昼休みに何ぃ?」
「俺だ!」「俺じゃ判んないわよ、何処の誰ぇ?」「この会社で俺と言うのは俺しか居ない!」「馬鹿言ってんじゃないわよ、俺なんて苗字、聴いたこと無いわよ?ふざけないでよね、こちらは忙しいんだから。」・・・と言ってガチャンと受話器を置き電話を切ってしまったのだ。

 電話を切ってものの2秒も経たずにまた掛かってきた。その怒鳴り声を聞いた同じ女子社員「アンタもしつこいわねー、警察呼ぶわよ?」と言って再び電話を切ってしまった。もうそれっきり電話は鳴らなかったと言う。誰もが「さすが姉御!」と頷きあってその場は終わった。

 と、10分ほどして突然階段を石津社長が営業部門の広いフロアに駆け上がって来てこう言った。「誰だっ!さっき電話に出た奴は?」これを目撃していた者はその場をこう表現した。カラー画像がいきなりドキュメンタリーのモノクロ画像になった・・そうだ。
 弁当を頬張ったまま女子社員全員が直立不動になったのは当然の事だった。「しつこいわねぇ」と言って電話を切ってしまった当の本人は完全にクビを覚悟したそうだ。 

 最長老の女子社員が口を開いた。「社長!あんまりです。私達は相手が誰だか確認するまで対応をしないように教育されています。お得意様は昼休みには絶対電話を掛けてきません。皆様我が社の内情を良くご存知ですし、ご自分達もランチタイムだから。今まで昼休みに掛かってきた電話は殆どがいたずら電話もしくは嫌がらせ電話ですので、それなりの対応をしました。社長であるならば仰ってくださらないと・・。」
 社長の顔は怒っていなかったという。そうしておもむろに女子社員の顔を見てこう言ったそうだ。「君達ね、お箸を置きなさい」立ったまま全員箸を置くのすら忘れていたらしい。そうして続けてこう言ったという。「俺が悪かった!」もうその瞬間、当の女子社員は泣き崩れたとの事だ。

 3丁目交差点のVAN本館から怒りに燃えて青山通りを物凄い勢いで歩いたのだろう。で、別館356に着くまでに頭が冷えたのか、怒りが収まったのか、対応策が決まったのだろう。最年長の女子社員の説明に納得したのだろう。その後社長はその場に居た女子社員全員を別の日ランチに招待したらしい。

 これは当時、事件の数日後に別館356営業部で耳にした話だが、最近よく言われる尾ひれの付いたヴァン ヂャケット社内の都市伝説かもしれない。しかし内容の大小は別にして本当にあった話だという。