野付半島から一本道のフラワーロードを標津町分岐まで戻り、南へ向けて車を走らせる。野付国道244号線をひたすら南下。周りは森林地帯と牧草地帯が交互に見えてくる。対向車はほんの時々2~3台まとまって通過する。途中の牧場でタンチョウが2羽、牛が牧草を食べて居る所に寄って行き、牛に追い払われているという場面に出くわした。あの正月のカレンダーにもなっているタンチョウの高貴なイメージが崩れ去るような現場だった。
話に聞くと、一時は絶滅の危機に瀕し、根釧原野での必死な保護活動のおかげで昨年1,000羽の数に達するまで80年掛かったタンチョウが、どうやら今年は1,400羽に急増し、農作物被害が急増しているという。下手をすると、近い将来方法は別にしても間引かねばならない状況にならないとも限らないという。動物の保護は非常に難しい。一途に保護しなければ!保護する事は正しい!だからそれを妨げるものはすべて悪だ・・、ばかりでは上手くいかないところが自然保護活動の難しさだろう。あのタンチョウを間引かなければいけない時期が迫っている?これは衝撃の情報だった。
国道243号線、別名パイロット国道に合流してしばらく南下した右側の牧場でタンチョウ2羽。
親子なのか、つがいなのか不明だがゆっくり牛の餌場へ・・・。
時々、地上の餌を探しながら干草の山に接近。
土中の昆虫などをあさっている様子。
牛のすぐ後ろで何かを待っている様子、牛は気になって見つめたまま。その後更に一歩近づいた時に、牛が尻尾を大きく回し、実を反転させた瞬間、タンチョウは足早に去っていった。牧草の草の実でも狙っていたのだろうか?増えすぎつつあるタンチョウを今後どうするのだろう?
自然保護、動物保護にはいろいろな考え方がある中で、2005年愛・地球博つまり愛知万博の地球市民村ブロックのコスモ石油ブースを企画プロデュース・運営を担当した時、その当時一番新しい考え方を知った。このコスモ石油ブースは早稲田大学理工学部の三輪研究室とのコラボレーションで、植物によるリアルタイム二酸化炭素吸収実験装置を発明し、185日間運営された人気ブースだった。あの「もったいない」で有名になったケニアの環境大臣・故ワンガリ・マータイさんにも「ぜひこの実験装置を持って帰りたい・・・。」と、非常に高い評価を得た実験・展示ブースだった。
愛知万博の地球市民村ブロックに於けるコスモ石油ブースの実験機器。筆者も加わり早稲田大学理工学部と岡山大学農学部の教授陣・大学院スタッフのコラボレーションで、今までになかった実験装置を発明し185日間運営、大好評を受けた。その後、この装置はお台場の日本科学未来館に展示された。メディアには300本以上の報道がなされた。
国内外の著名な科学者がブースを訪れ、我々研究スタッフもランチタイムなどに色々な地球の自然環境論を伺った。その中でヨーロッパなどでは、事実に即さない盲目的で観念的な自然保護活動に対する科学メディアの評価が非常に厳しくなってきているという事だった。「自然を良く知らない人間や一般メディアは、数が急激に減少しつつある絶滅危惧種を憂いてあらゆる手段を講じ、半ば宗教的な熱意でいろんな条例・法律で保護しようとしている。しかし、もし大きな自然の流れを人間の手でコントロールできるなどと思っているのであれば大きな間違いだ。絶滅していく、あるいは絶滅してしまった種は、人間の生活を含む自然界の色々な環境・条件の変化でそうなったのであって、ちっぽけな人間が手を入れて防御しても無理がある。
今ある目の前の自然環境が最高だと思い込み、『今』をそのままにKEEPすべきだと思うのは人間のエゴで、自然界はそこに生きている動植物含めて常にバランスを取りながら変化しているのだ」という。北極の氷が薄くなってシロクマといわれる北極熊が溺れて死滅しても、もともと15万年前にはホッキョクグマは存在しておらず、北海道にも居るヒグマから氷河期の自然環境上分かれた種なので、氷期が終われば自然に消滅してもおかしくないという。更に今後更に温暖化が進んだ場合、極端に思えるかもしれないが今後別の種の赤いクマが出現してもおかしくない。地球の自然は常に変化し続けているので、消えていく種がある一方で、実は日々新しい種がその倍近く生まれ、発見されているという。自然界の動植物の環境への対応能力と自身の変化は、人間の想像をはるかに超えているという。
このあたり、インターナショナル・スタンダードの自然環境、動植物に対する人間の接し方に関して、もう少し深く学び、日本に於ける野鳥に対する接し方、保護姿勢、一般常識がこれら世界の科学者の常識の中でどういう位置にあるのか考えてみたいと思った。同時に国内では一番具体的に野鳥に接する姿勢が進んでいる道東エリアの野鳥観察に関する実態を勉強するとともに、日本では極端に数が少ない、あるいはごく限られた場所にしかいないといわれるエトピリカなど、海鳥を中心に絶滅危惧種が一番多い、道東の野鳥保護保全現場に直接来ることで、これらを少し自分自身の体で感じたいと思ったのだった。
根室方面へ車を運転しつつ、途中でタンチョウの姿を撮影しながらこれらの事を思い浮かべていたのだった。