2020年10月10日土曜日

緊急投稿!新・肥薩線の復旧を考える。その4.(川辺川ダムが在っても洪水は起きた!)) Consider restoration of the New Hisatsu Line. Vol 4. (Flood occurred even if there was a Kawabe River dam!))

  10月4日の熊本地元の地方紙・熊本日日新聞朝刊に今回球磨川豪雨水害発生時7月4日の降水量データが非常に判り易く掲載された。これは画期的な事だと思う。多少地学や地理を学んだ者であれば、計算機一台で今回豪雨水害の概要がつかめるだろう。

 国交省が唐突に「川辺川ダムさえあったらば・・」などと蒲島知事に白紙に戻された腹いせのような意図的水量発表をする前に、本来関係者全員が知らなければいけない「何処でどれだけ、どう云う降り方をしたのか?」を知るべき非常に重要な資料だ。何とか全国紙に転載できないものだろうか?

 この掲載記事に出ている数値は筆者も最も欲しかったデータだった。熊日新聞の快挙と言って良いと思う。見せ方も小学校高学年・中学生以上であれば非常に解り易い!喝采!
 各自治体の行政マンや議会の議員さんたちは、これを良く精査・分析して何が読み取れるか?一体何が事実だったのか、数値を含めて分析結果を共有しなければいけないと思う。その上で議論をすべきと考えるが如何?

 現在、ダム建設推進を唱える者と、ダムを考えずに洪水防災を唱えるグループの根拠としている専門家の解説や数値データがそれぞれ根拠もバラバラで、意味のない主張合戦を呈している。国交省の流量計算の方法やその根拠など、気象学者と河川防災学者がそれぞれ政治的背景や利権背景を排して同じテーブルについて議論し、今回の「総合的解釈」を出すのがまず最初ではないだろうかと思うのだが如何だろう?

 まだその過程にある今、事実を理解できていない政治家や自治体の首長がそれぞれの背景の要望を元に何を主張しても意味が無いと思うのだが・・・。

 結論から言えば、一番降水量が多かったのはなんと人吉市から八代平野に至るまでの球磨川峡谷部エリアに流れ込む支流域で、決して人吉市より上流部の錦町・あさぎり町など球磨川エリアや川辺川ダム建設予定地より上流部エリアの降水量の方が多かった訳では無いのだ。

 これはつまり、今回の洪水がダム予定地上流部より主に下流部で降った量の方が多い事により起きている・・・という事実を知る意味で大きな資料と言えよう。
 一般的に川の上流部・山岳地の方が降水量が多いものだと勝手に想像し、「だからダムが在れば洪水を食い止めてくれよう・・、」という思い込みを打ち砕く貴重なデータなのだと思う。

 その辺りは、この解り易いデータを一覧表にしてみてすぐに判った。降り始めから4日の正午までの総降水量を色分けしたデータ表と、洪水に直接的に影響が強いと思われる4日未明午前0時から明け方8時までの集中豪雨時の降水量を両方一覧表に並べてみて解った。

一覧表にすると左に分類した3か所の降水量の差が数値的に良く判るのではないだろうか?

➀ 川辺川合流地点より上流部市房ダム方面の球磨川本流域の平均値。
  *降り始めから4日正午まで=453㎜
  *4日0時~8時=283㎜
② 川辺川ダム予定地より上流部の川辺川流域の平均値。
  *降り始めから4日正午まで=422㎜
  *4日0時~8時=247㎜
③ 球磨川・川辺川合流部より下流球磨川流域(人吉市と下流域の峡谷部)平均値。
  *降り始めから4日正午まで=477㎜
  *4日0時~8時=308㎜

計算機片手に計算してみた。色々作業でまる1日掛かった。

 3エリアの観測地点の数が違うので、そのまま総降水量を足してはいけない。総降水量を観測地点数で割って3つの流域の観測地点平均を出してみた。

 そうしたら、降り始めからの総降水量、7月4日の朝8時間の降水量ともに一番降ったのは何と!人吉から八代市坂本町附近の球磨川峡谷部だった。

 要はこのブログの10月1日(今回の記事3日前)の投稿通りに近い事が起こっていたという事ではないのか?緊急投稿!新・肥薩線の復旧を考える。その3.(ダムの是非しか考えないのか?) Consider restoration of the New Hisatsu Line. Vol 1. (Is it only the pros and cons of the dam?)」

http://yamasemiweb.blogspot.com/2020/10/consider-restoration-of-new-hisatsu.html

 これに次いで、人吉市から球磨川上流の湯山~水上エリアで、しっかり降水量を計測できるはずの市房ダム付近ほか6か所では計測不能と言う豪雨が降ったようだ。これも計測不能な量が降ったという事であれば3流域の数値はもっと広がる可能性があるし、別の意味(ハード面の国と県の不備・責任)で大問題だ。だからこそ、7月4日の朝、あと1時間豪雨が続いたら市房ダムは支えきれずに緊急放流せざるを得なかったという事なのだろう。

 一方、この3グループの中で一番数値的に低いのが、川辺川ダム予定地より上流の川辺川エリアだった…という事は、川辺川ダムが在ったとしても今回の洪水は防げていないという事に成るだろう。逆に言えば線状降水帯が今回より北にシフトして降水量が一番多ければ、在ったとしての川辺川ダムが緊急放流せざるを得ない事態が起きて、更に甚大な被害を招いた可能性が非常に高い。

 これらのデータを筆者のような素人ではなく、その道の専門家の方に判り易く分析解説して頂きたいし、地元の熊日新聞は是非今回のように一般人にも判り易い情報開示をお願いしたいところだ、手を揉みながら期待したい。

 つくづく、今回の情報開示を得て国交省がまず最初に唐突に川辺川ダムが在ったら・・などと言う発表を行ったことに作為的な嫌らしさを感じる次第。

 最近になって、このあたりの不自然さに疑問を感じるメディア記事や、地元有識者の意見が増えてきたことに、判っている人もちゃんと居るんだ!と、安心感を覚えた。

 空から降った水の殆どは川となって海にそそぐ、小学生でもわかる話だ。つまり降った雨の降水量と河川の流量とは比例しない訳が無い。

 この降水量を分析しさえすれば国交省の発表した水量や、川辺川ダムが在ったら減らせた水量が妥当か否かすぐに判ろう?河川の専門家の方々は降水量と川の流量の比較をしながら、是非一般の我々にも判り易く解説をして欲しい。

 こういった情報を詳しく分析して専門家が発表し、すべての政治家・議員さん、各自治体の首長さんが同じレベルでこれを勉強し数値的な認識・洪水の起きるメカニズムを理解をした上で、この先の防災を議論し生き抜く術を考えねばいけないのではないだろうか?

 今のままでは意見を述べる方々の頭の中のレベルがあまりに違うので、このままではダムの有る無しという、低次元の部分的な論戦だけが大きくなり、混乱に拍車をかけるだけのような気がする。

今朝10月10日の熊日新聞記事より。

 特にこのように国交省の発表だけを元に、その他の事を精査もせず要望だけする行政の首長たちは、もう一度「事実」をしっかり精査して「真実」を知る必要があるのではないだろうか? 勇気をもって「ちょっと待て!まず事実をきちんと知ろう!」と不安感から宗教のように「ダムさえあれば・・・」と勢いづく面々の横一線の動きにくぎを刺す首長は・・・出てこないだろうなぁ(涙)

 かって20世紀に米国の大統領になったJ・F・ケネディが就任演説で「あなた方は国に何かをしてもらおうと考える前に、あなた方自身が国に何を出来るか考えて欲しい・・。」と言った有名な演説を想い出した。
 かっての一揆のように雪崩打つ限られた不安感と限られた情報に乗った民意の勢いを正し、説明し啓蒙するのも選ばれし首長や議員の役割ではないだろうか?

 このブログでも繰り返して言うが、「自然の脅威を人間の力で治められる『治水』などと言う驕った言葉は、もう既に意味なさない地球環境の時代に入った。」と早く皆が認識すべきだろうと思う。

 色々被害を軽減する方法はあると思うが、洪水を全くなくすのは不可能だと早く悟るべきで、次世代以降の住民の命を守るためにも、今すぐ取り掛かれる危険地域からの移住・早期予知・予防・住民啓蒙・避難訓練・人命救助の方をまず先に考えるべきではないのか?

 それに、ダムさえあればと建設を推進する者は、ダムが完成した後に今回と同等以上の被害が生まれた時の責任の取り方を各人共に考えておくべきだろうと思う。