2020年10月1日木曜日

緊急投稿!新・肥薩線の復旧を考える。その3.(ダムの是非しか考えないのか?) Consider restoration of the New Hisatsu Line. Vol 1. (Is it only the pros and cons of the dam?)

  8月26日の地元新聞で「もし川辺川ダムが在ったれば人吉附近の球磨川の流量が毎秒4700トンで、今回の毎秒8000トンの4割減(=58%)に成ったはず・・」との何故か仮定・川辺川ダムが在った場合の想定数値だけが突然発表され、その算出根拠もほかのデータも全然報道されていないまま10月に入った。無理やり蒲島知事のコメントを引き出さんがための策略のような唐突な国交省の発表、あれからもう3か月だ。

 筆者としてはそれよりも、もっと根本的な部分で今回球磨川豪雨災害に関する情報公開⇒報道について不可解だと思っている部分がある。今日はその喉に引っかかったような骨の部分を此処で問うてみたい。

日本気象協会の過去の天気より抜粋。

 筆者は気象に関しても河川水害に関しても専門家ではない。現在勉強中だ。しかし、よそ者ながらヤマセミを中心とする流域野鳥の生態観察と撮影で、今回の災害エリア球磨川・川辺川を10年間人吉市内に300泊以上して土手沿いに春夏秋冬・車で周り尽くしている。

 ある意味、地元のごく一部特殊な方(河川関係・漁業関係者・行政関係の一部)を除いた一般住民の方々よりも現場を良く見て知っている。したがって地元新聞やその他メディアだけで今回豪雨災害の情報を得て物事を判断されている方とは、多少視点が違うかもしれない。

 

今日のブログは、筆者個人的に思う疑問点を列挙してみた。一番重要なのは、いきなり「川辺川ダムが在った場合人吉附近の球磨川流量は4割減になっただろう・・。」の報道の前に、本来もっと報道すべき重要なデータや説明が在るべきだろう…という点だ。

 ➀ 今回豪雨の総雨量なり、降り方、降ったエリアごとの量を気象の専門機関が

   何故時系列的にきちんと発表しないのだろう?

   またメディアは何故報道しない?

 ② 過去の大水害時に比べて、今回7月4日前後の総雨量なり降雨量推移を含めて

   どのくらい多かったのか?過去とどう違ったのかを何故発表しないのだろう?

 ③ 気象庁や日本気象協会、あるいは民間のウエザーニュース等の総括発表より

   前に国交省のダム関連の発表の方が唐突にメディアに大きく載るのは何故なの

   だろう?

 ③ 球磨川水系・各支流河川毎全体の水量は?判らないのか?調べていないのか?

 ④ 仮定・川辺川ダム上流の降水量とそれ以外の球磨川水系全ての降水量は?

 ⑤ 球磨川水系・支流部の水量計・チェックポイントは現状どうなっている?

 ⑥ 全河川に降水量チェック機器、および監視用ライブカメラは何故無いのか?

 ⑦ 唐突に発表された「仮定・川辺川ダムが在ったら4割減⇒毎秒4700トン

   (=今回8000トンの58%)の根拠は?算出方法は?

 ⑧ 降雨量・降雨推移と河川の氾濫は非常に密接な関連があるにもかかわらず、

   気象庁・その他気象関連機関と国交省の合同記者発表が何故無いのだ?

   これは、縦割り行政の弊害の最たるものではないのか?それとも、それを

   行うと川辺川ダム建設に非常にまずい事態が起こってしまうからなのか?

  (⇒あくまで憶測)


 一方で逆に、もし7月4日時点で仮定・川辺川ダムが存在していたとして、線状降水帯の豪雨があと3時間続いていたら市房ダム+仮定・川辺川ダムの緊急放流(今回は1時間の差で奇跡的に免れた)でいったいどれだけの流量が人吉附近で発生しただろう。身の毛もよだつことが想定されよう。このあたりの発表も何故無いのだろう?

 もしこれが起きていた場合、どれだけ甚大な被害に成っていたかなどのマイナス要因は一切発表しない。何故だろう?圧倒的にダム建設にマイナスだからか?

 奇跡的に直前に豪雨が下り坂になって緊急放流は免れたが、今後は奇跡が起こらず放流せざるを得ない状況は必ず来るだろう?ダム建設のデメリットとしてこれは常識だろう?

 こんな情報開示の偏り様では、地元流域住民に間違った想像・認識・理解を与える事は間違いない。

 例えば線状降水帯が仮定・川辺川ダムより上流の流域にほとんど掛からず、球磨川本流部及び盆地南部の山岳エリアに集中した場合、仮定・川辺川ダムの存在は全く役に立たないことを球磨川流域、人吉市・相良村・錦町・あさぎり町・多良木町の人々は判っているだろうか?

今回7月3日~4日の広域線状降水帯の降雨域実際図。

 上記の中でこのような仮定・川辺川ダム以南への線状降水帯豪雨が数度あった。線状降水帯が多少、仮定・川辺川ダムに掛かったとしてもそのダムが貯水する河川は殆どが豪雨エリアから外れている。筆者が日本気象協会の降雨エリアデータを視る限り、今回も実はこの南部に軸を置いたパターンが非常に多かった。

 もしこの部分だけの集中豪雨が今後来た場合(充分想定できる)仮定・川辺川ダムは意味が全くなくなる。球磨川本流へ流れ込む各支流の水量は今回同様相当なものになると思われる。球磨川本流へ流れ込む水量だけで今回波の洪水も起こり得るだろう。

 結果として、同じことが繰り返されるだけだ。その際川辺川ダムの建設推進する人たちや国交省はどう説明するのだろう?洪水発生エリアは黒っぽく見える部分。

 まして、逆に仮定・川辺川ダム上流部だけに今回以上の集中豪雨の比率が高まった場合、ダムの緊急放流の被害をどのように想定するのだろう?

 過去のデータはあくまで過去の結果で、今後それを上回る豪雨・線状降水帯が発生しないという保証は全く無いのだ。地球の気候変動でむしろその可能性は遥かに今まで以上に大きくなっている事は多くの専門家たちが警告を発している通りだ。

 現に、今回の豪雨水害は過去の球磨川の水害よりはるか酷いものであったし、想定値を上回っていた。それを国交省なり関係責任部署は想定していなかったのだろう?過去のデータにだけ頼っていたからこそ事前対処(市房ダムの調整放流や住民退避行動)も出来ず被害が出たのだろう?しかし、ちゃんと人吉市に関せばハザードマップ通りの浸水が起きている。

 人吉市の洪水浸水ハザードマップの作り方は、専門家用の資料の様で、後出する東京都各区の住民用のとはずいぶん違うように見える。高齢者でも判り易いもっと親切で簡単なのが在るかもしれないが・・。

 肥薩線の球磨川第一橋梁や第二橋梁は国交省の定める洪水規定値より2m低いまま放っておいた為、流木その他の流された物に耐えられずに鉄骨が流されたのだという。その結果、今回の球磨川豪雨水害を全国に知らしめた、あの劇的でシンボリックな被害画像に成った訳だろう。

 このあたり国交省とJR九州、地元行政が危機感持って対処していれば防げたのだろうと思う。したがって今回のデータを元にすべてこの先の対策を考えるだけではまったくダメなのだ。極端に言えば、この先は今回の最大値の150%の豪雨・水量を予測した防御対策が必要なのだろう。

 しかしそれは現在でも2~5m水没すると予想されている人吉市のハザードマップ(今回水害はその通り以上に成った)以上の被害に成る事を推定せざるを得ない。これは確実なので、人吉市そのものの在り方、洪水時の対処方法を考え直さなければならないだろう。

 人吉市は洪水が起きる、今後も必ず水没する・・を前提に、街造りをやり治す必要が出てくるのではないだろうか?立地条件上それは仕方が無い事だ。今の地球環境下ではもう人力での治水は不可能だと認識する必要が在ろう。自然との共生しかこの先は無いような気がする。「治水より避難が重要」という事だ。

 同じような水没ハザードマップは首都東京の下町一帯・全区にも広範囲にわたって存在する。地震の地殻変動、液状化、津波、超巨大台風の高潮、などで水深5~10m(最大20m)にも成る想定地図・区域が色分けされている。だからこそそうなったときに何処のビルに逃げるか、町内ごとにシミュレーション出来ていて、5~6階建てのビルに災害時の備品も用意されている所が多いと聞く。東京23区全てに区ごとに浸水深度~浸水時間が詳しく示されており、住民はそうなることを覚悟の上で避難訓練を頻繁に実施している。

 東京下町の住民は、高潮や洪水など自然災害は何をどうやっても起きるものだと当の昔に認識している。「ダムや防潮堤が必要だ」だの「国や都はちゃんと治水して我々を守れ!」などと言わない。それをいくら言っても大自然の前には意味なさないことを知っているから・・。

江東区の場合

https://www.city.koto.lg.jp/470601/documents/map_flood_japanese.pdf

江戸川区の場合

https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/step5-1.pdf 全体説明

https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/step5-2.pdf 高潮の場合

https://www.city.edogawa.tokyo.jp/documents/519/step5-3.pdf 荒川氾濫の時

 過去において、東京の下町とは異なり実際に何度も洪水に見舞われて来た人吉市は、これらのハザードマップも勿論有るようだが、それなりのシミュレーション、対策や、避難訓練を頻繁にきちんと行ってきているのだろうか?

 もし市の中心部で、それを行ってきて無いのであるならば、国や国交省だけに球磨川の治水を何とかしろと言っても無理ではないのか?繰り返すが、もうずいぶん前から地球は人間の力で制御できる降雨量ではない気候に成ってしまったのだ。今回の事で球磨川流域すべての住民はそれをしっかりと認識しないといけないのではないだろうか?

 同時に・・・。

 本来今回の豪雨水害の全貌をあらゆる視点からデータ分析した結果の公開を、国交省だけでなく、河川の専門家・研究者を入れて行うべきなのだが、未だにそれがなされぬままメディアに感情的な「ダムさえあれば」「ダムを前提にモノを考えるな」などの文字が躍っている。

 メディアは、まず事実を判り易く説明する気象データ・洪水データの開示と、国交省だけでない気象専門家・地球環境専門家による分析とこの先への展望を一般の人々へ幾つかのパターンで示せるよう各方面に働きかけるべきだと思う。

 同時に「報道機関」として、どの意見にも組みしない、中立の立場で情報伝達すべきではないだろうか?

 特に市井の一般人たちは、河川の専門家・気象の専門家の解説で専門用語と理解不可な数字を並べられても、まったく何も理解できない。

 解り易く一般人・地域住民へ伝える義務が地元メディアにはあるはずだ。それが不足しているからこそ感情的な「ダム推進派VSダム反対派」のような対立を生み出してしまうのだろう?メディアの責任は重大だ。

 情報と知識をろくに持っていない住民たちの、身の不安から起きる感情的な意見対立などを「こんな陳情・要請が在った、こんな意見があった、こんな決議がなされた‥」等ばかり、人々のうろたえる姿ばかりを報道しても、混乱に輪をかけるだけではないだろうか?

 このあたり、メディアは一文字・一文字慎重に情報を伝達しなければいけないと思う。劇的な見出しで「自画自賛」して酔ってもらっては困るのだ。