2015年5月16日土曜日

団塊世代のヤマセミ狂い外伝・番外編 「マルチコプター(=ドローン)考察」

 首相官邸の屋根に墜落したドローンの話題から一気にメデイア・マスコミがマルチコプター(=ドローン)を取り上げ、報道し始めた。もうドローンに関する事で在れば何でもかんでもだ。其の報道に載りたい、目立ちたいという15歳少年の未熟な操縦事故(意図的か?)までもがニュースのトップを飾ったりする。日本のメディアのレベルが世界一低いと言われる所以だ。

 昨年12月に日本のマルチコプター界の第一人者と言われる超ベテラン(実は30年来の旧友)が、本来のマルチコプターの用途の1つ、人の行けない場所の調査に南九州まで出張してきた際に懇願して野鳥生態観察のお手伝いをして頂いた。具体的にいえば国交省等からの要請で活火山桜島の火口付近上空からの調査にスタッフとして来られたのだ。

 この際この彼にお願いしたのは、絶滅危惧種であるクロツラヘラサギの生息数調査に関してこのマルチコプターが如何に役立ちそうかの実証実験だった。多分国内でも初めての実証実験だろうと思う。自分自身早稲田大学の理工学術院研究所で招聘研究員として野鳥と人間の共創(共生とも言う、決して競争ではない)について研究しているが、マルチコプターはこの研究に相当有効だろうと思い1年前から活用方法を研究していた。まさに其の一部を実証できたわけで大きな効果があった。



その他、以前から行われている農薬散布、上空からの測量、映像空撮などに加え、現在野鳥の生態・行動観察、絶滅危惧種の保護、繁殖支援に活用できるかの研究を行っている。一方で電力送電線の山中の保全管理監視、飛行場での航空機バードストライク防止(=野鳥群れ監視・排除)多人数移動監視、災害時避難誘導などの分野への活用方法も同僚とシステムを研究している所だ。

 勿論過去においてはまったく不可能だった空撮の簡略化など、活用ジャンルを一気に広げたと言う点でこのマルチコプター(=ドローン)は今後のビジネス・産業拡大に驚異的なモノをもたらす事は誰も疑わないだろう。

 しかし、問題はマスコミだ。このマスコミはマルチコプター・ドローンの事をろくに勉強しないまま、事故・事件が起きると被害者面して報道する。更にマルチコプターが何で有るかの詳細を何も知らない一般通行人に勝手な印象を聞き、さも世論の代表のような顔をする。はたまた聞きかじりの素人操作でマスコミ自身が英国大使館にドローンを墜落させるなど碌な事をしない。

 そもそも最初にマルチコプター・ドローンがいとも簡単に安価で手に入り、だれもが簡単に飛ばせると紹介報道したのは誰だ?推奨したのは誰だ?自分で実証もしないで「簡単・安全・凄い!」と最新情報として広めたのはメディア・マスコミではなかったか?それが首相官邸事件以降、一気にマルチコプター・ドローンを悪者扱いし世論を被害者的に煽っている。クリスマスプレゼントの箱を開けて取り出して、誰でも簡単に直ぐに飛ばせて・・・って、マルチコプター・ドローンはそんなに簡単な物ではないのだ。マスコミは其の点今まで偏りすぎた報道をし続けた点を反省しなければいけない。

 此れで一番被害・迷惑をこうむっているのが以前からマルチコプターで仕事を行って来ている最先端のパイオニア達、技術者達だ。決してドローンのメーカーや販売店ではなく実務能力のある最先端のオペレーターたちだ。勿論遊びで飛ばしたり、空撮した遊び映像を映像投稿サイトにアップして自慢している単なる目立ちたがり屋・先取り自慢屋の連中は除く。間違いなくマスコミ・メディアはこの辺りをきちんと理解していない。整理する能力が無いのだろうか?

 今はまだ開発途上のマルチコプター・ドローンだから、玩具の領域に毛の生えた程度で中国製のファントム(首相官邸に落下した機種のメーカー)筆頭に、初期のIT企業と同じような群雄割拠の様相だ。しかしMRJや次期国産戦闘機を開発している大企業が本格的にこの簡易空撮飛行物体のビジネス・メリットを見出し開発参入た場合、産業構造は一気に変化するだろう。いまは突然思わぬブレイクした状況で先駆者としての自尊心と優越感に浸っているドローン業界関係者は、余程広い視野で色々な人材・先進ビジネス経験者を巻き込んでいかないと、遅かれ早かれ混乱状態に陥ってしまうことは眼に見えている。

 過去においてスノーボード業界がそうだった。ウインドサーフィン業界がそうだった。勿論パソコン業界しかり。例えばスノーボード、1990年頃スノーボードを滑れたのは北海道全域と本州の場末の空いたスキー場だけだった。業界の団体も自称プロの選手達とそのOB、ならびにメーカー社員、販売店主だけで構成されていた。それが1994年頃から爆発的にブレークして一大ウィンタースポーツ産業になった。1997年になってほぼ全国の大手スキー場でもスキー客急減に背に腹を代えられず、スノーボードを滑れる様に開放しブームは更にヒートアップした。其のうち1998年長野オリンピックで当時のサマランチ会長がスノーボードを正式種目にする。
 
 最初はどんなにマイナーな新種目であっても、楽しむプレーヤーが激増し、用具産業がビジネスとして大きくなればオリンピック種目に成ることは簡単な事だ。IOC・オリンピックが常にお金と結びついている事はいまや公然の事だ。当然其の種目を司る団体も本格的な勢力が牛耳るようになる。それまで自称プロ集団の団体だったのがアッと言う間に体協の全日本スキー連盟が仕切るようになった。

 「オリンピックは最初にスノーボードを始めた我々プロ集団の我々が仕切るのが筋だ!」と言い張ったプロの競技団体はいつの間にかマスコミ・メディアに取り上げられなくなった。当時広告代理店に居ながら全日本スキー連盟スノーボード専門委員を拝命していた筆者は、この騒動に巻き込まれ散々な目に遭ってしまった。当時この新しいスノーボードに関して知識が殆ど無かったJOC会長八木祐四郎先生(全日本スキー連盟専務理事・東京美装会長)に2ヶ月間付き切りで毎朝スノーボードに関してレクチャーを行った。同時に自分もメディアへの対応、団体としてのあり方、一般へのPRのやり方などを痛いほど学んだ。

 今のドローン業界を見ている限り、これと殆ど同じようなニオイを感ずる。マスコミ対応、マルチコプター全体を見渡して立ち位置を判断できる人材、今後の展望、他の産業との関係。法律・条令・事故予想等に対する全てを司れる人材・組織はまだ無い。関係者寄せ集めのグループの域を出ていない。勿論個々に優秀な人材は居る、逆に言えば現在はまだ今の業界にしか居ないだろう。しかし人材は直ぐに育つ。ただ残念なのは組織運営・お金を獲って講習を開催すると言うビジネス展開に関してプロの人材が居ない事だ。
 今後このマルチコプター・ドローンの世界はビジネス的に見ても今の100倍以上にはなると踏んでいる。自然淘汰されつつ5年後にはすっかり人材は変化しているに違いない。マルチコプターを如何に活用していくか、そのためにはどのような改良が必要かを考えていく人材と、マシンそのものの操縦者・メカに強い人材は別のものだろうと思う。発展が楽しみだ。人より先に関わっているからと言う優位性はあと1年で無くなるだろう、いつまでも続かない。其の先が問題となる。

 先日、このマルチコプターの「安全講習会」と称するものに5千円の参加費を払って行ってきた。たかが5千円でも払えばこちらは消費者・客だ。主宰者は客商売だ。しかし、参加者の入場証は無い、配られる資料はバラバラでファイルホルダーすらない。始まってしまえば入口は雑然、通る人間は参加者なのか否か、誰も入退場者をチェックしていない。セキュリティ対策等殆ど感じられない。お金を獲ったお客に対するサービス精神が感じられなかった。

 講義の中味には割りに満足した。残念ながらお約束で時間を設けたのであろう国交省と総務省からの広報担当者を除いては、素晴らしい経験と実践の中味を持っていながら時間も足りず、浅く広くの講義内容で消化不良だった。特にマルチコプターを飛ばすとカラスが寄って来る、ライトを点灯すると離れる・・・等の実地に即した経験談をもっとしっかりと聴きたかった。

 メディアで此れだけ取り上げられ、世の中の注目を集めたドローン「一体どういうものだろう?」とネットから申し込み、参加費用を払い込んで最新情報を吸収すべく参加した人が半分以上だろう。

 当日会場に座っていて周りの参加者の声が色々聴こえてきた。
 「申し込みの際には何が有っても参加費は払い戻さないって言っておきながら、もし参加できない場合は、キャンセル待ちの方が沢山居ますから早めに連絡しろと言う。払い戻ししないと言っているのに、誰が申し出るものか?自分勝手な運営だ、素人だな」と言う声が聴こえた。

 それに普通は「講習会」と名の付いた会は「終了証・受講証」と言うものを発行するのが世の常識だ、それも発行された記憶は無い。此れを訝しがる声も有った。要はこの手のイベントを実施するには最低限の常識があるのだ。お金を取った以上それに対する対価を提供しなければ参加者の満足は得られない。何処か手馴れた企業が「ドローン・サミット2015」と称してドリンク付、資料バインダー付、IDカード兼受講証をきちんと発行して運営したならば客はそちらへ行くだろう。マルチコプター・ドローンの業界・世界は既に其の時代になっていると思う。

 30年来スノーボードでも一緒に長野オリンピックを運営した同志のような存在の有識者が今回講師に成って出ていた。話しを訊くと実はこのグループに関わっているらしいので今後は是非応援しようと思う。