2017年10月8日日曜日

拙著「人吉市の山翡翠」受賞の「日本自費出版文化賞」表彰式レポート。 This is the report of award ceremony of Japan self- publication culture awards.

 日本自費出版ネットワークというNPO法人が在る。東京の中央区日本橋小伝馬町に本部を置き、あの中山千夏さん(団塊世代の昭和23年熊本県生まれ)が主宰者を務めている。

 この団体は自費出版文化を担う出版・印刷業者を背景に個人でもグループでも販売して利益を得るか否かを問わず「本を出す」個人なり団体を応援しようとする非営利団体だ。設立は1996年、1998年からは一般公募で「日本自費出版文化賞」を開始、優秀作品を表彰している。




 しかし、1998年最初の公募点数は1,782点あったが、2007年第10回は915点に減り、今回第20回は遂に600点を切る応募数にまで減少してきている。これはネットの急発達、モバイル通信端末、SNSのまん延に相対して、アナログ印刷物・雑誌文化の衰退が如実に表れているが故だろう。

 

 団塊世代の筆者が昔通勤時の電車の中で見た光景は週刊誌やマンガ雑誌とスポーツ新聞、日経新聞を見るサラリーマンだった。それが今殆どの乗客が降りる駅を忘れる程スマホに見入っている。時代は変わったのだ、今までの常識認識では生きていけないのだ。


 昨日の表彰式、来賓・後援者・スポンサー挨拶を聴いていても、この辺り時代の変化に印刷物に関わる業界、つまり出版社・印刷業者が今何をすべきかを具体的に提案する声はついに聴かれなかった。


 今回の入選作品、上位入賞作品を各ジャンル的に視てみると、原爆、戦争の記録、占領下の苦労話、風土記資料の様なものが多く、作者も高齢者だったり、応募はしたものの表彰式まで命を長らえずに亡くなってしまったり、応募直前に亡くなってしまい代理の方が応募したケースもあるようだ。

 ジャンル別のネタに関してはリアルな今現在のモノと昔の資料編、掘り出しネタを混在させず、もっと若いモノたちが今のネタで応募できる仕組みを作っていかねば、あと5年で応募点数は300を切るのではないだろうか。




 要は文字文化・印刷物文化の中心で生きてきた方の応募割合が多く、決して今後の出版印刷業界へ希望を見出せそうな要因が感じられない。これでは今後も応募者がジリ貧になってしまうのは致し方ないだろう。残念ながらネット社会・SNSの流れは決して後戻りしない。若者の印刷物離れは更に加速して進むに違いない。

 このような時代背景の中で出版印刷業界が今後どう進むかはネット+SNSと出版印刷のクロスオーバー、つまり情報発信におけるメディアミックスによる相乗効果を計る様な知恵を出さねばならないだろう。しかして出版印刷業界にそういう知恵者が居るだろうか?

 

 実は筆者は2013年「江津湖の野鳥」、2014年「川辺川・球磨川流域の山翡翠」2017年今年「人吉市の山翡翠」グラフィック部門で3回入選を頂いた。2015年には「団塊世代のヤマセミ狂い外伝」でエッセイ―部門・自分史部門の2部門で入選を頂いた。

授賞式に臨む筆者10月7日 市ヶ谷アルカディアで


 いずれも毎回自宅のパソコンで初歩的なDTPを行い、画像処理ソフトで写っている真実を決して曲げないレベルでのトリミング・シャープネス修正を行い、表紙デザイン、本文レイアウト、コピー文章執筆をこなし原稿を作っている。


 最終入稿デジタル処理をパソコン入稿処理のベテランに依頼し、印刷工場直発注で印刷したもので、ほぼ家内制手工業に近い形で完成している。従って無償配布を基本としている為、毎回500~1000冊程度の印刷でしかないが、最大でも50万円前後の費用で毎回製作できている。


 実は過去のこの日本自費出版文化賞で上位の賞を頂いた中に、大学の美術専攻科同級生が居るのを、昨日の表彰式の過去の作品展示で知った。彼の知人に話を訊くと大手新聞社が絡み、本人何と1,000万円もの出費をしたという。これがもし本当ならば一世一代の出費に違いない。何冊印刷したか判らないが販売価格も一冊5,000円は下らないので、内容面・価格面から見ても一般の方々にそう沢山売れるとも思えない。

 出版後、少しでも掛けたお金を回収する意味で、知人友人に販売価格を大きく割って買ってもらうよう相当苦労した様だ。

 一方で勿論バックのメディアや出版社・印刷会社は儲かった事だろう。同級生として当時この事を知っていれば何とか知恵を働かせ応援できたものを残念で仕方がない。

 この彼の出版物のコストパフォーマンスはとてつもなく悪いに違いない。 例えば1,000冊作って一冊1万円だ、500冊なら一冊当たり2万円だ。出版印刷業界の方々はこれが普通の本を自費出版する際の当たり前の姿なのか良く考えて欲しい。


 情報発信を目的とする出版印刷において、同じ1000冊の本を一冊辺りのコスト1万円以上も掛け、従来の告知・宣伝販売ルートにのみ頼り、自費出版者が大赤字で苦労する一方、1冊辺りの生産コスト500円程度で出版しネットと連動して告知し、配って意味のある関係者に無償完配し情報発信の目的を達するのと、どちらが自費出版運動の普及推進に意味があるか・・・。

 それとも自費出版推進運動は裕福な出費が可能な「お客」による出版社・印刷業者の利益機会拡大のみが狙いだったのか?それではあんまりではないだろうか?


 コンテストには関係ないが、別の例でも有名写真家さんに依頼したイメージ写真本二冊組箱入りを一千万以上の費用をかけて制作された方がいた。非売品なので配布・伝達方法が今後の課題だと言っていたが・・・。


 現在は10年前とは大きく違い、自分の想いを何らかのスタイルで情報発信できるチャンスは無尽蔵に存在する。WEBサイト・ブログに始まり、SNSもツイッターやラインからフェイスブック、インスタグラム、ピンタレストなど人間の選択能力以上のメニューに日々囲まれている。


 筆者は、ヤマセミ生態を中心とする野鳥の情報を発信するにあたって、いつまでも手元に残るアナログ紙媒体としての写真集と、同じ画像を使用した専用のWEBサイト、更には毎日更新するブログを3本の軸として、これらのさわりをSNS・ツィッターとフェイスブックで告知している。ツイッターはPCからの一日一回の発信であるにもかかわらず、平均で一週間で6,000回程度のアクセス、ブログも毎日250~300程度のページビューを頂いている。




 今回受賞した「人吉市の山翡翠」も人吉市中心の熊本県で無償配布したものの全国からのリクエストを受けて、東京神田に全国でたった一軒存在するバードウォッチング専門店ホビーズワールドで売って頂いたところ、半年で100冊以上が売れた様だ。(※現在は売り切れ終了)

 要は何を言いたいか、「本を出すってお金がかかって大変なんでしょ?」の今までの常識を出版印刷業界の方々が、今後を見据えてどう変えて行けるかに今後の業界の進んでいく方向が見えるのではないだろうかと言う事だ。お金を儲ける為の出版物ネタ、お金を設ける為の印刷受注方式が、今後ますます少なくなる利益機会に、今まで通り高いコストやマージンを乗せれば乗せる程、業界が衰退していくという事だ。


ご参考

 先月9月昨日の表彰式の情報を投稿した日のブログ。

「写真集『人吉の山翡翠』が賞を頂いた。The photograph book "Crested kingfisher of Hitoyoshi" obtained the prize.」