2014年6月4日水曜日

ヤマセミの環境対応能力には限度があるようだ。 I think the ability of the crested kingfisher for environment seems to have a limit.

 今回人吉で3週間にわたりヤマセミの繁殖行動の観察・撮影を行ったが、今年の人吉エリアのヤマセミ繁殖は例年に比べて非常に遅れている。6月1日現在調査対象の6か所の内1か所のみで巣立ちが完了、もう1か所で現在進行中だった。他の4か所は気配がなかった。これは育雛中の頻繁な親鳥の採餌行動も観察できなかったので少し例年とは異なった状況が起こりつつあるような気がする。

 1か所は天敵の襲撃によりオス1羽を残して全滅、巣立ち中の家族も5羽の雛の内1羽が天敵にやられ、1羽が何らかの理由で巣から落下してカラスの餌食になっていた。その中で例年4羽の雛で賑やかだった木山の淵(人吉城跡)のヤマセミに子育ての兆候がない。

 今年の長崎国体のカヌー競技会場を人吉市が受けて、この秋に大橋の中川原公園中心に開催することになっているが、そのカヌーの練習にこのヤマセミの子育てを行っている木山の淵付近を頻繁に開放しているのも一つの原因ではないだろうかと考えている。勿論その他の要因もあると思うが今までにはなかった要因として目に付くので気になっている。

 もともと人吉の高校は伝統的なカヌー競技強豪校で、木山の淵では毎週クラブ活動として練習を行ってきていたがその場所は、球磨川下りの出船場からせいぜい200m上流までで、その上の瀬の部分までは展開していない。これは過去3年間ヤマセミの撮影を行って画像で残っている。ヤマセミの方もそれがそういう環境だと慣れていて、地元の高校生のカヌー練習とヤマセミの共存は成り立っていた。

 しかし今年は国体の練習や準備でヤマセミの事など何も知らない主として他県からのカヌーの練習者がヤマセミの繁殖エリアを縦横無尽に大声を上げて走り回っている。普段水面ギリギリを飛ぶヤマセミが相当高度を上げて避けて飛場ざるを得ない状況が続いている。当然カラスやトビなどの脅威にさらされる為子育ての場所として木山の淵を放棄したのではないだろうかと危惧している。

 この事は1か月以上前、繁殖期に人吉市の行政にも善処をお願いしたが、具体的には事実上何の対応もされていない。これが今年だけの特異例で終わり、来年からまたヤマセミが戻ってくることを祈るばかりだが、大切な人吉市の自然財産を人間の知恵と工夫で守れるのに守ろうと努力しない姿勢はあまり良い事ではない。
昨年の木山の淵6月初旬、幼鳥もカヌー練習を気にすることなく対岸まで出張ってきている。見事に野鳥と人間の共存が成り立っていた。全国的に見ても稀有な環境だと言って良い。

例年の事として鮎釣りの人にも慣れていて普通に生活している。今年6月1日撮影。

このヘルメットの女性カヌー選手のように木山の淵側から80m右岸側を通ればヤマセミもご覧のとおりいつもの木に留まったまま普通にしている。ヤマセミにも学習能力は有り、経験値から身の保全・環境の変化への順応はしていると思うが、繁殖期における人間の接近には対応できない。


しかし、木山の淵、人吉城跡側の瀬を行くカヌーはヤマセミに脅威となり慌てて逃げていく。その際も高い位置を飛んで避けている。こういったカヌーイストは決して多くは無いが関係各方面への注意喚起・協力要請は一部市の行政の役割ではないだろうか?球磨川にはいくつも瀬が有り、ヤマセミの繁殖エリアではない場所はいくらでもある。何もわざわざヤマセミが例年子育てをする場所に来て練習することもなかろう?こういう事情を知らないカヌーイストに何らかの形で状況を伝達する方法は無いだろうか?

本来水面近くを飛ぶことでいざという時水中に没して逃げる身の保全を図るヤマセミが高い所を飛ばなければいけない事で起きる天敵からの脅威はこの場所からの撤退を引き起こしかねない。

普段はヤマセミはこの様に水面ギリギリを飛んで移動する野鳥だ。早くこの姿を人吉城跡前で観られるようにしたいものだ。撮影するには150~200mの対岸から行わねばならないが、幼鳥たちをしつけるヤマセミの生態を観察するには最も適したエリアであると思う。