2014年3月22日土曜日

「団塊世代のヤマセミ狂い」番外編・野鳥撮影に関する環境の変化

 2006年熊本の江津湖でカワセミを観て以来、仕事でたびたび出張した熊本県庁、市役所などの周り坪井川沿い、熊本城址などで色々な野鳥の写真を撮り始めた。
もちろんこの頃野鳥に関してはまだ人並みの「バーダー」ではなく大まかに鳩、カラス、スズメ、トビ、ツバメ、カモメ類としか知らず、初心者も良い所だった。しかし鳥の名など知らないでも日常生活には全然何の問題も無かった。 

写真撮影の経験(専門的な教育は全然受けていない)も、かれこれ50年になるが仕事中心に独学で気が付いたら半世紀も経ったというだけの事、特に専門的なカメラ機材に凝った訳でもなく、高級機種を買い漁る財力も無かった。

 撮影スキルもウインドサーフィンやスノーボードなど新しいアウトドアスポーツのジャンルで人材が少なく必要に迫られて、自分でそのスポーツをやりながらその業界での仕事上そのジャンルの撮影方法に関して詳しくなっただけで、写真全般に関しての専門的知識が豊富にある訳ではなかった。

ただ、友人や教師には大変恵まれた。ウインドサーフィン関連では故・前野やすし氏、ウインドやスノースポーツの世界大会で一緒に仕事を続けた播本明彦氏、いまはホノルルからカリフォルニアに移った大御所スティーブ・ウィルキンス先生(=Steve Wilkings)。

他には雑誌ポパイで活躍し一緒に仕事をさせて頂いた馬場佑介氏、恩田義則氏、などその仕事ぶりを横で観ながら勉強し、技を盗み、常識を覚えたのが実情だった。スティーブ氏を筆頭に概ね温厚で非常に人間味に溢れる方々だったが、名前の挙がらなかった幾人かの他のカメラマンは極端に芸術肌と云うか個性的であまり深くコミュニケーションは取りたくない人種だった。
写真撮影のカメラマンにはこういう個性的な人種も多いのだと云う事をこの頃学んだ。

わが師スティーブ・ウィルキンス、サーフィン系の撮影領域ではすでにレジェンド的大御所。筆者の実用英語の先生でもある。

 1970年頃大学の教育学部美術科在学中に「写真」が「絵画」とは異なるある部分で圧倒的に優れている事に気が付き、国家予算で現像暗室を造ってもらい独学で写真撮影と現像焼き付けを2年間続けた。これが今のすべての基本になっている。その領域での卒論でも十分卒業できたと後から教授に聞いたことが有る。

こういった背景の中で仕事を離れて野鳥を被写体にした撮影が2006年から始まったのだが、今までアウトドアスポーツ中心に撮影をしていたせいか、いつの間にか何を撮るにしても決定的瞬間を収める癖が身に付いていた。
ウインドサーフィンで言えばハワイ・マウイ島の5mもある大波を蹴って10mの高さに飛び上がるジャンプ、さらにはそこから着水するまでの間にクルッと一回転する瞬間。

スノーボードでもハーフパイプからリップを蹴って観客が見上げる中、空中でボードをグラブし回転している姿など、「雰囲気」ではなく「瞬間」を切り取る事が大切という常識で訓練をしてきたようなものだ。
ウインドの大会撮影で。オアフ島ダイアモンドヘッド1989年ロビーナッシュのスーパー杯ジャンプ!筆者撮影。

このような理由から、野鳥も撮影当初からただ枝や岩に留まっている時よりも、飛んでいる時、急降下している時、争っている時、何か普段とは違う動きの時の撮影に非常にファイトが湧いた。いわば動くもの全てに目が行く恐竜のようなものか?
撮れた画像も静止画ながら飛翔の瞬間の美しさに魅かれた。そのチャンスをモノにするには被写体を良く観察し、何がしかの行動パターンを早く読み取る注意力が非常に大切だと云う事も大いに勉強した。

しかし、瞬間美を撮り始めて直ぐに、単に瞬間的に撮れた美しい画像も良いが、色々な仕草を見せたり、色々な飛び方をしたり、色々な行動を取るその背景にある「理由・原因は何か?」「何故そういう状況にこの被写体は有るのだろう?」という理科系・生物学が好きで昔からの得意ジャンルの疑問が湧いてきた。まさに野鳥、特にヤマセミの魅力にハマったのがこの瞬間だったと思って良いだろう。
こちらに向いて1日に3度もパフォーマンスを見せるヤマセミ

愛知万博開催2005年の頃、植物の生態と地球環境との関係を研究した時に、動物は自由にどこへでも移動できるが、植物は種や球根が植わった場所から殆ど移動できない事に注目したことが有った。
しかし動物が動くスピードに反応し慣れている我々は、植物が育ち蔓を延ばすスピードを目視では判断できない。モノの例えに使われる「雨後の筍」ですら、その場で目を凝らして見ていてもその動きは判らない。
しかし植物もれっきとした生き物だ、朝顔の蔓やアンコールワットの巨石遺跡に纏わり着く蔓植物を微速度撮影して普通のスピードで再現すれば動物の様にのた打ち回りながら気味が悪い程の動きを見せる。要は生きているスピードの単位が違うだけなのだ。

これのまさに逆で目視では判断できない野鳥の早い動き、身のこなしの瞬間美とその背景にある理由を少しでも知りたいというのが撮影をし始めて数年経って行きついた自分の研究領域だった。
採餌した餌を咥えて雌の元に向かうヤマセミの雄。

いわゆる愛鳥家・バーダーというグループには実は色々異なった目的・目標を持っている人種が入っている。
綺麗な接近画像を撮影する事に命を懸け、ノートリ(トリミングをしていないという意味)を至上の自慢とし、コンテストに応募して褒められて自慢する人も居れば、なかなか遭えない野鳥を追い求め全国を回り、出現地点を予測して首尾よく遭遇して画像に収め貴重な記録として残す人も居る。

はたまた日本で観られる野鳥をすべて観たいとキャンピングカーで全国を行脚し、視た野鳥の種類数を誇る人も居よう。
更に一方で絶滅危惧種の保護に日夜努力している人も居るし、地元の野鳥のデータを時系列的に調査し地元の自然がどのように移りつつあるか定点観察・経年変化を押し計っている人も居る、千差万別だ。

つまり愛鳥家・バーダーはこうで無ければいけない!と云った決まりは何処にも無い。ましてや何をしている人が偉いなどと云う事、野鳥に関わる領域でその関わり方に貴賤が有ってはいけないし、自分とは異なる考えの人を非難し攻撃したり見下げるといった排他的態度・行動もあってはならない筈だ。

これら愛鳥家・バーダーの中でカメラによる撮影をしている人は20%程度だろうか?あるいは全国比率ではもっと少ないかもしれない。団塊世代がリタイヤしてこれらの世代が趣味領域に大量に入る時世の中がどう変化するか、広告代理店勤務時2001年、21世紀に入った時に色々な調査データをまとめた事が有った。
トップはどのデータも「旅行」で揺るぎ無い地位だった。一方で写真撮影、パソコンスキルの習得がいずれの調査データでも必ず上位にランクされ年を追って上昇していた。

カメラメーカーもこれらリタイヤした団塊世代中心の消費者ターゲットを当て込んだデジタルカメラの高級機種・新機種をこぞって出し始めたのがちょうど2000年頃からだった。
画素数を上げ、秒間コマ数を上げ、フルサイズのデジタル一眼高級機種を送り出し、レンズのバリエーションを増やしていった。
更にはミラーレスの軽いデジタル一眼をオリンパスが2005年発表すれば、こぞって主力メーカーもこれを追い販売台数はうなぎのぼりとなった。さすがに2013年にはこの伸びは止まったようだが、一方でこれらを購入し手にしたカメラマンが続々と撮影フィールドに散った訳だ。カメラに関して大きな技術革新のない現在、数年後はミラーの開閉の無いミラーレスが秒間コマ数をもっと上げたカメラを開発するだろう。

主な被写体は景色とSL蒸気機関車と野鳥。これが3大人気被写体と云われている。景色の中には四季折々の自然風景(富士山も含む)、街並み、祭り、桜に紅葉が主流に在り、SLはSLやまぐち号、SL人吉号、SLばんえつ物語、SLニセコ号など全国各地で倍増中。一方で肝心の野鳥関連は愛鳥・バーダー人口が急激に増えている一方で、高価な野鳥写真集の発刊数・売れ行きは減少傾向に有るという。この原因はインターネット、WEBサイト・ブログの増加と撮影者自体の増加により自分でどんどん撮影しデジタル画像とパソコン普及・スキル普及で自らデジタル作品集を造り発信できるようになった事がその背景にあるとみて良い。

一方で、団塊世代特有の競い合う、自慢し合う、優越感を誇りたいが為の醜い争いが撮影現場でたびたびトラブルを起こしている。これは昨年の5月ごろのブログで紹介した通り。良い撮影ポイントの争奪戦、撮影するための施設破壊、住民への迷惑、カメラ機材の自慢合戦、撮影チャンスを得られない悔しさ、他人の良い成果に対する妬みやっかみ。これらから派生する各種トラブルは今後も増えて行く事だろう。これらを減少させるには各自の人間性の向上を待つしかないのだろう。
奥日光戦場ヶ原の木道へ徒党を組んで三脚を持ち込み撮影時に一般歩行者の大迷惑になっているバーダー・グループも激増しているという。
  
 Facebook、TwitterなどSNSの急速な広がりは、今や通常のブログ・WEBサイトを凌ぎ野鳥画像の拡散も今までの常識では計り知れない領域に入り始めている。
 国内のブログ人気ランキングサイト「日本ブログ村・ブログランキング」等でも野鳥写真のジャンルは日々ランキングが上下するほど人気領域で、いかに多くの愛鳥家が視ているか良く判る。
 私のTwitter登録でも現在約1400名のフォロワーの中の45%は海外の野鳥写真家だ。基本的には海外の野鳥写真家はその綺麗さと生態のユニークさ中心で説明なしの画像を拡散していて非常に勉強になる。
 システム上Twitterには文字数に制限があるため、拡散限度はあるものの今後もタイムリーな野鳥情報発信などでその活用頻度は増加していくと思われる。
現在同時に全国で4名の方がアクセス中というブログデータ監視システム

このYAMASEMI WEBサイトに毎日どれだけアクセスしているかの推移リサーチグラフ。

 このような野鳥撮影の人口増加、頻度増加・領域拡散の中で撮影による野鳥へのプレッシャーを気遣う必要が増加する事は当然の成り行きだ。
 個人的にも撮影対象にストレスなく近づきたいが為、初めの頃は被写体を刺激する派手なウエアは着ないお喋りを控える・・程度だが、そのうち迷彩カラーのウエア・持ち物で周りの景色に溶け込んで撮影する、時には匍匐前進で被写体に近づく・・・などの努力をするようになる。
 もちろんこれは誰もが行う初歩的な試みだろう。人間の6~8倍の視力を持つ野鳥から見えないという事はまず無理としても脅威を感じさせない点で効果は確実にある。
ネイチャー・プロカメラマンTim Lamanの野鳥撮影時のスタイル

  しばらく撮影を経験すると留鳥で縄張り意識の強い野鳥(たとえばヤマセミ)などいつもそこに行けば居る種の野鳥は、レンズを向ける撮影者が自分への脅威ではないと野鳥側が認識した段階で普通よりはるかに近い所まで接近する事が可能だ。それが人里であればなおさらの事。飛んで来て肩にこそ留まりはしないがヤマセミが20m程の距離に飛来し、逃げずに普通にしているようになることは幾度も身をもって経験している。私が観察研究を続けている人吉のヤマセミの中の2家族がその典型だ。この事は地元にお住いの愛鳥家・民家の方から多数同じケースを幾つも聴いて確信している。
こちらを認識している人吉のヤマセミ個体、行くと時には筆者の車の傍に降りてくるようになって既に4年目を迎える。

 これらを続けているうちに野鳥が自動車と云うモノに脅威を感じず、ほとんど警戒しない事を知るようになる。現に先程のヤマセミにおいては車中から撮影した場合、最短距離5mまで向こうから寄ってきたことが有る。車を背に外に出て地面に座っていて7m程まで近づいてきたこともある。気が付いていないのではなく確実にこちらを目視・認識してなにがしかのアクションを行う。時にはこちらに向けて脱糞、またある時は水中から拾ってきた小枝をクルクル廻して見せる・・。ますますその野鳥にハマる事は想像できよう。
 
 それが一般的に他地域では極めて遭遇し難いヤマセミの様な種であればなおさらの事。渡り鳥や珍鳥・迷鳥ではこうはいかぬと思うが人間の側がじっくりと時間を掛けるとこういう事も有り得る。要は工夫と努力だろうか。

 現在、野鳥にストレスを極力与えないで観察・写真撮影するハイテク手法を開発検討中だ。ヒントは1997年のハリウッド映画「ジャッカル」。その昔1970年代フレデリック・フォーサイスの「ジャッカルの日」をフレッド・ジンネマン監督で映画化し大ヒットしたが、これをハリウッドがブルース・ウイリスとリチャード・ギアでリメイクしたものだ。

 この中でリモコン雲台に乗せた大型機関砲をラップトップで遠隔操作し暗殺テロを行うというのが在った。これの照準用にCanonの500mm程度の超望遠レンズが組み込まれていた。今試作を進めているのがこの武器の機関砲を外して超望遠レンズだけを電動雲台に取りつけ、車の中からラップトップで遠隔操作し野鳥の行動に殆どストレスを与えず撮影するというモノ。
 映画の中ではジョイスティックで雲台を動かし、ラップトップの画面でフォーカスを行っている。

映画の中で電動雲台に乗せた機関砲の照準に使われているCanon超望遠レンズ

市販されている電動の雲台(リモコンで離れた所から操作可能)

 現在大学の研究室でこれのプロトタイプを作成中だ。先日39種の極楽鳥をすべて撮影したティム・レイマンの講演を聴いたが、彼もジャングルでの極楽鳥の求愛ダンスや樹上での生態撮影に木に括り付けた電動雲台にカメラを乗せ地上の小屋の中から遠隔操作で接近画像を収めていた。Canonの最新システムにこの手のPC遠隔操作撮影用アプリが有りCanon Utilityで公開している。どんどんこういった最新技術を取り入れ、新しい撮影手法を為してみたい。
 このように、創意工夫と技術革新で自然を被写体にストレスなく、ぐっと手前に引きよせる事が出来るようになった。今後もこのような工夫を続けて良い画像を収録してみたいと思う。