10年間、約30万カットに及ぶヤマセミの観察画像の中から繁殖にまつわる生態の写真集を現在編纂中であることは既にこのブログでご紹介したとおりだ。
やはり、継続して特定のつがいを追い続けたり、他のつがいとの比較を行うだけヤマセミそのものに出遭えないというのがその理由だろうと察する。
鶏を筆頭に野鳥や動物類を詳細に書き込んだ、かの伊藤若冲の30幅に及ぶ『動物綵絵』においてもヤマセミは描かれていない。若冲は鶏を庭で飼い、つぶさに観察スケッチを繰り返して絵を仕上げているがヤマセミにはついに出遭えず描いていない。たとえ出遭えたとしても自分の絵のモチーフにするほどの充分な観察頻度や時間が無かったのだろう。
その編纂中の写真集の中から、今日は地元・球磨川の川沿いにお住いの辻 正彦先生(元 内科・循環器科の医師)が撮影された、過去において何処にも記録が無い貴重な幼鳥の行動をご紹介。
なんと!巣立ち間もないヤマセミの幼鳥が、本能のなすまま自分が留まっていた木の枝の延長上の小枝を折って、それを使って獲物を岩に叩きつけて打ち砕く訓練をしたのだ。
水に潜って木の葉や小枝を拾ってきて、獲物に見立てて打ち砕く訓練はいくらでも収録できているが、横に生えて居る小枝をへし折って獲物に見立てる行動は後にも先にもこの画像しかない。この貴重な行動に気付かれシャッターを押した辻先生の観察力は実に素晴らしいと思う。撮影自体は川幅200mに及ぶ球磨川の本流の対岸を撮影したもの。200mの距離で良くこれだけの証拠画像が撮れたものだ。
野鳥写真は少しでも近寄って綺麗な画像を撮れただけが「いい写真」ではない。野鳥の珍しい生態の瞬間を抑える生物学的野鳥撮影もあるという事の典型画像だと思う。一に観察、二に観察、三に野鳥の次の行動の予測。これが野鳥生態撮影に重要な事だろうと思う。
ノートリだなんて自慢して喜んでいるうちは、まだまだ野鳥撮影の初心者だろうと思う次第。