「更にぐっと近づく」って、近づけば逃げてしまう大自然の野鳥なので、望遠レンズの倍率を上げて近づこうとすれば、レンズは重たいし砲身は長いし三脚が必要になるし・・・と、単純に馬鹿でも考えそうな事ではないというくらいはすぐその場で判ったのだが。
では、具体的にどうすればいいのかを考えながら信州霧ヶ峰の八島湿原へ向かったのだ。
で、その方の過去の作品写真集の印象深いカットを幾つも思い出し、撮影の基本(あくまで自己流だが)、4W1H=いつ、何処で、何を、何の目的として、どうやって、撮影するか・・を整理し、その中で「更にぐっと近づく」意味を探ってみた。
対象物はノビタキを中心とする秋の高原の野鳥(夏鳥・渡り鳥)だ。 そこで、まずこいつらの今の状態を理解しようと考えた。もう早朝の最低気温が12~3℃を下回ると、渡りの準備で忙しくなる野鳥たちは採餌行動が盛んになる。
例えばフライングキャッチで有名なノビタキも、空中に羽虫が飛んでもいない時間に待ち受けてもしょうがない、では虫達はいつから行動するのだろう?まずこの辺りから八島湿原そのものの自然環境観察を行った。
日の出前に、昨晩はたった一人の旅人として泊めて頂いた御射山ヒュッテをカメラを提げてそーっと出発。朝露に濡れた木道は滑る滑る!傾斜がきつければ誰でも転びそう。足腰の弱い人は早朝行っちゃダメ!
おまけに朝一番の木道は何と小動物の糞だらけ!朝陽が当たると妙に綺麗だったりする。よそ見をして踏んでしまったらウンの尽き?でも人間の糞の様な臭い匂いはしない。食べ物に人工甘味料や添加物が無いからだろうか?
で、鋭い朝陽が車山の頂上アンテナドームの方向から射してきて突然状況が一変した。いきなりあちこちから鳥の声が聞こえ始めたのだ!朝陽が合図なの?
じゃあ、曇った日や雨の日はどうなんだ?など余計なことはさておいて、木道の朝露がみるみる乾き始めると、湿原の中の方からノビタキが木道側へ押し寄せるように飛んで来た。その数20羽以上!
お前ら昨日の夕方何処にいたんだ?と言いたくなるほどの数。こちらはジョン・デンバーじゃないが朝陽を背に受けて、なおかつ上下迷彩服を着用し、大きな樹木の影の中で動かず、そのままの状態でノビタキの動きを観察し、まずレンズは10分間ぴたりとも動かさなかった。
どんなに隠れたつもりでも、超逆光でも野生動物には鋭い第六感が有るので動けば警戒されてしまう。なにせ元は恐竜、チラノザウルスの仲間だもの、こちらが動けばあっという間に遠ざかる。
ここがポイントだ、撮りたい気持ちを我慢して10分観察を続けた。早朝の大自然の10分は長い。陽はどんどん昇るし、影も短くなる、湿原も全面に陽が射して明るくなってしまう。
もう良いだろうと思った頃、ノビタキがすぐ傍の枯れた特徴的なハバヤバボクチに留まった。宇宙植物の様な形態をしている。この日最初にシャッターを切ったのは此処からだった。計1200カット。
夕方自宅へ戻ってパソコンの画面でその成果を視て大納得!「更にぐっと近づく!」は、実は「更にぐっと近づいて来るまでカメラを向けない事!」だったのだ。
今日はまずその成果の一部をランダムに!
山の稜線から上る朝日の光は非常に鋭い、特に台風一過の空は・・。
風景写真撮影をされる方にとってはこの朝の一瞬が命だろう?草紅葉まっさかりの八島湿原。
樹木の影に入って己の存在を消したつもりだが、野鳥には丸見え?此処まで片手でコンデジ撮影。
陽が出ると、湿原からノビタキが飛んでくる。
ハバヤバボクチという名の枯れた植物に留まったノビタキ。
一番近い所まで来たノビタキで4m程の距離か。
顔が黒くて眼が判り難い野鳥の一つ、オオジュリン♂と双璧か?
枯れたシシウドに留まったメスのノビタキ。
陽が出て飛び始めた赤とんぼをゲットした。
咥えたまま飛び出すノビタキ。
木道のあちこちで赤とんぼの争奪戦が始まった。逆光でもグッと寄ると面白い成果が・・・。