以前、八代駅前のミック珈琲店のカウンターで、球磨川漁協の方々と色々球磨川やヤマセミに関する話をしている際に、どなたかが「ヤマセミが自分の羽根を抜いて水に落とし、それに近寄った魚をヤマセミが採餌するらしいという話を聞いた。」というものが、この件に接した一番最初だった。
もしそういう事であれば、その一部始終を観察・撮影したい・・・と強く思ったので、非常に印象的に覚えている。それ以降、人吉他の地域でヤマセミがそういう行動をする場を逃すまいと結構必死でチャンスを伺った。
しかし、それ以降ほぼ200日間観察を続けた限りでは、残念ながらそれらしい場面には一度も出遭っていない。
人の話、それも都会の人間ではなく球磨川に関して日常的に接している方の話を鵜呑みにしてチャンスを狙ったのだが、よく考えてみると生態的にヤマセミがササゴイと同じような採餌方法を取る事自体非常に難しいのではないだろうかと思うようになった。
生態学的にも物理的にも高い所からダイブして水中の魚を採餌するヤマセミと、鼻先に羽毛や木の葉を浮かばせてそれに寄った魚を飛び込んで捕えるササゴイでは根本的な部分で大きな違いがあるだろうと思うようになった。
ヤマセミを観察・撮影していて球磨川の堤防に留まっているヤマセミが球磨川の魚を採餌する際は3m以上ジャンプするか3m以上飛びあがってホバリングした後ダイブして採餌した場面はいくらでも撮影している。しかし堤防の端から飛び上がらず、目の前の水面にそのままドボンと入水した事は一度も無かった。
ササゴイやダイサギは羽根を落とした目の前の水面に、首とくちばしを近づけ、落とした羽根から数センチの距離で魚を待ち突っ込む瞬間の間合いを計る訳だ。
これに対し、ヤマセミやミサゴの様にある程度以上の高い距離から水中の魚の動きを見極め、本来急降下して水中(水面ではない)に居る獲物を獲る採餌方法の野鳥がササゴイ方式の採餌をする(できる)とは思えないのだ。
ましてや、流れのある川に羽や何かを落として、流れて行くのを注視しながら追い続け場所を移動するなど、ヤマセミにはとても出来る芸当ではないと思うが如何だろう。
しかし物事には「絶対」という事は無い。特に生物学的には白いイノシシが現れたり、神の使いだと言われる白い蛇が出現したりするので、気まぐれなヤマセミがそれに似たような事をしたとしても筆者は絶対に信じない訳ではない。但し証拠画像・動画が在りさえすればの話だが。残念だが「観た!」という話の聴き伝え情報だけでは信じる訳には行かない。
生物学的、生態学的にみて「証拠=事実」さえあれば「真実」と認め驚くことに成ろう。だから筆者はNHKの自然番組が大好きなのだ。中にはカメラの横に餌を置いて対象生物をおびき寄せてアップで撮影したりもしようが、それ自体はやらせ撮影であっても事実を収録しており「嘘」ではないのでいつも大変納得している。自然界で「事実」を画像や映像に残すのは想像以上に大変なのだ。
以前「ダーウィンが来た!」でヤマセミが水中の小魚をダイブして採餌するシーンがあった。千歳川の砂底をお椀状に掘り、その窪みに集まる小魚をヤマセミが真上から見てダイブして採餌すると判っていたからこそ、水中に無人カメラを固定して撮影したのだろう。勿論あくまで推察だが。
しかし、そうでもしなければヤマセミの採餌の瞬間は今に至っても誰も映像で観られないのだ。NHKスタッフ・クルーと筆者も尊敬する嶋田忠さんの努力なくしては誰も判らなかったのだ。個人的にも非常に感謝している映像だ。あの映像なくして筆者の写真集もこのブログも始まっていないのだから。
という事で、今日のこのブログは「ヤマセミも撒き餌採餌をするかどうか?」に関しての考察。
江津湖のササゴイ、ゾウさん池で2007年の撮影。
同じく江津湖駐車場横の川で獲物の鼻先で採餌行動に入るササゴイ。
ダイブしたが、この時は魚に逃げられてしまった!
武蔵野の野川でダイサギが羽根を浮かせて撒き餌採餌の瞬間。
自分の羽毛をそーっと水面に。
30秒ほど待った次の瞬間首を突っ込んだ!
小さな魚をゲットした真冬のダイサギ撒き餌採餌。
芦北町田ノ浦にお住いの濱崎さんのヤマセミ換羽時の画像。
羽毛ではなく主翼の羽根を弄んだ後落としたが、これは決して撒き餌採餌ではない。此の場所は撒き餌採餌をせずとも大量の小魚で一杯の砂防ダムの上の浅瀬。いつも散々採餌している現場に筆者も招待して頂いた。
本来球磨川・川辺川のヤマセミは一般的にこの程度の高度からダイブして採餌する。川辺川での撮影。
同じ川辺川でも低い水際からの採餌時は、こうしていったん飛び上がらなければ採餌出来ないのがヤマセミなのだ。このダイブ撮影時も採餌に成功。
同類のカワセミもこうしてある程度の高さから勢いをつけてダイブする。目の前に浮いた羽根めがけてドボン!という採餌法は生態的に出来ないのだと推察する。