此の彼が、大の蝶コレクター、研究家であったことは誰もが知っている有名な話だ。
この鳩山邦夫氏とはひょんなご縁があった。彼の祖母、鳩山薫さんは勿論かの鳩山一郎元総理大臣の奥方だが、同時に女性教育者でもあった。共立女子学園の学園長を務め女子教育に力を注がれた偉大な女性だ。厳しい方だった。
小学校、高校時代の女子同級生の中にも数名、この共立女子学園の共立女子大卒が居る。この共立学園には幼稚園が有る。大日坂幼稚園といって鳩山家の音羽御殿から南へ少し行った江戸川橋の丘の中腹に1954年から今でも在る。
で、我が祖母新庄よし子が御茶ノ水幼稚園勤務からこの大日坂幼稚園へ事実上の園長(名義上は副園長)としてスカウトされてきたのは開園時だったという。
当時父が勤める十条製紙の東京北区西ヶ原の社宅に住んでいた筆者は、通い始めた幼稚園(飛鳥すみれ幼稚園=これもまだ在る)で同じクラスの女子をいじめた年長組のワルガキをジャングルジムから突き落とした。その罪でたった3日で謹慎させられた。その幼稚園の措置に怒り狂った祖母は、筆者を自主退園させ、ついには幼稚園には行かず祖母に直接教育された。今考えると筆者は手短なモルモットだったのだろうか?
真ん中が鳩山薫さん、右の和服が我が祖母新庄よし子。上段左端は中学校時代・八代二中(熊本県八代市)のクラスメート、御茶ノ水を出て大日坂幼稚園に勤務した。
祖母は日本幼稚園史などを編纂した幼稚園教育の専門家だったのだ。
そうして、その祖母に連れられて音羽の鳩山邸へ良く行ったのが、その幼稚園から小学校1年生の頃だった。
我が祖母が関わった「日本幼稚園史」 グーグルフリー画像より
広い芝生の庭園にはバラが沢山植わっていて蝶が飛んでいたのを覚えている。そこで補虫網を振り回していたのが亡くなった鳩山邦夫氏だったと記憶している。勿論正確な記憶ではない、行ってもせいぜい数回の事だったろうし、厳しいおばあ様教育者2人に常に見張られていたので、普段の自分など出せる訳もなかったろう。
当時筆者はこういう大人の前ではいつも非常に「良い子」だったらしい。勿論後で褒められ、ご褒美をもらう事を期待していたからに決まっている。この当時はそういう「お約束」の様な暗黙のルールが教育者の祖母と筆者の間には在った。
肝心の蝶の話に入る前に、前置きが長くなりすぎた・・・。
野川沿いの林の中で昼前11時半頃見つけたのは、クロコノマチョウという南方系の、つい最近まで関東地方では居なかった蝶だった。タテハチョウ科ジャノメチョウ亜科に属する蝶らしい。
この蝶に最初に出遭ったのは今年の9月夕方。日が暮れて野川沿いをランニングしていた時だった。7月末からダイエットを主目的に2日に一度のペースで10kmランを繰り返していた。背中のデイパックに着替え・タオルに500mlのペットボトルや携帯電話・コンパクトデジタルカメラを入れ約1時間強走っていたのだ。
そうして日没後の暗い空間をわりに大型の黒い蝶が毎日同じころ飛ぶのを発見!留まった所をストロボ撮影し、中学校時代同じ生物部に居た蝶博士の友人に画像を送った所、結構珍しいクロコノマチョウだという事が判明した。
蝶博士の話によると、止まる時には絶対に羽根を閉じたまま留まるので、表側はまず観られないという、しかしそれが結構キレイだというのだ。綺麗なモノは大好きだ、何としても表側を見てみたい・・・と思いつつ2か月が過ぎた。
そうして、夕方ではないが昼間の野川沿いの林で3頭(なんと!チョウは1頭・2頭とカウントするのだ)のクロコノマチョウに遭遇した。もちろん表側を見てみたい一心で、留まったクロコノマチョウをいつまでもファインダーにとらえていたが、いつまで経っても全然飛ぶ気配がない。そこで、ガサガサ近づいて飛び立ったところを連写で写せば「下手な鉄砲数撃てば当たろう?」の論理で1枚くらい何とかなるだろう…とチャレンジした。
正解だった。画像を蝶博士にメール添付で送ったら褒めてくれた、嬉しい。
暗い草の生い茂る林の斜面を、蝶を追い掛けながら重たいカメラで連写する団塊世代の67歳!少しでも苦労を理解して頂けると報われる。
クロコノマチョウはコノハチョウやテングチョウのように閉じた時は枯葉に完全にとけ込む保護色、擬態に近い?。飛んでいる蝶が留まるからわかる様なもので、普通に最初から留まっていたらまず判らない。林の中を歩くといきなり足元から現れるように感ずるのはその理由からだろう。
飛び上がった瞬間もこういう画像になる。大きさはツマグロヒョウモンくらいか。
ところが、飛んで開いて、表面が見えた時は何とゴージャスなチョウかと思う!
非常にシックながら品の在る模様だ。勿論肉眼ではまず拝めない。
なぜこれを隠す必要があるのだろう、凄く人気の出そうなチョウでは無いか?
木漏れ日の所で撮れた画像はなおさら綺麗だ。
飛んでいるのを動きながら撮るのだから、なかなかピントは合わない。
飛翔速度は速い、動くヤマセミやツバメを撮る練習が非常に役立っている。
クロコノマチョウという名は「黒っぽい木の間の蝶」という意味だろうか?
チョウというものは瞬間的に面白い形に成る。
30分間ほど林の中を走り回ってしまった。まだしばらくは居るらしい。
クロコノマチョウは繁殖に関して幼虫時代ジュズダマやススキで過ごすらしい。
調べたら、すぐ傍の野川自然観察園にジュズダマの群生地が在った。納得!