2019年5月26日日曜日

団塊世代は「『時代』立木義浩1959-2019写真展」の会場から2時間出る気がしなかった。 The baby boomers didn't like leaving for two hours from the venue of "Yoshihiro Tatsuki Photo Exhibition".

 筆者には尊敬する写真家が数名居る。ユージーン・スミス氏、佐藤秀明さん、星野道夫氏、風景ではマイケル・ケンナ氏、ハワイの自然とウインドサーフィンではスティーブ・ウイルキンス氏。いずれも筆者が数多く学び、盗んだ、ある意味師匠だ。
 これらの方に今日立木義浩氏が加わった。

 これらのプロの第一線の写真家の人々に共通しているのは、とにかく現場に数多く実際・自分で足を運び、苦労して写真撮影をしている事がその作品にしっかりと視て取れる方々ばかり。

 今まで有名人・芸能人(特に女性)を綺麗に撮るプロの写真家はあまり好きではなかった。篠山紀信、大竹省二、秋山庄太郎。
 すました顔の綺麗な被写体を撮れば誰が撮ってもきれいに見えるだろう?という、まだ写真の奥深さを全然知らない頃、勝手に思いこんでいた単純な理由だった。

 だから今日の立木義浩氏の写真展も、入り口からすぐの昭和20~30年代のヨコハマの佇まいを撮影したシリーズなどがとても好きだった。赤レンガ倉庫がまだ倉庫として機能していた頃、自分も横浜国立大学の美術学生として、幾度もスケッチなどに通ったエリアなので親近感もあったのだろう。

 それが、色々な芸能人や映画監督を撮影した作品群を見て、まあ何と幅広い撮影活動をされる方だろうと驚いた。
 今やただの毒舌オバサンになっている女優・加賀まりこさんが1971年のパリの地下鉄で佇んでいる姿は、まさに1972年英国へ40日間筆者が行っていた時のパリの地下鉄と同じだ!と声が出そうになった。

 雑誌アンアン創刊号の表紙立川ユリの撮影もそうだ!今でもこの創刊号を筆者は大切に持っている。VAN倒産時にID室のごみ箱から拾って来たものだ。

 しかしアンアン誌上の彼女の色々な画像をじっくりと見ると、どれも記憶が在るような気がした。当時はさすが非常にきゃしゃで細身のモデルさんだと思ったが、現在の本田翼や杏、川原亜矢子の身長に対する頭の小ささに比べると、意外にも結構頭や顔が大きかったんだと驚かされたりもした。ヘアスタイルのせいかもしれないが・・・。

 このほか芸能人や黒澤明監督など、著名人のポートレートが沢山あったが、それぞれの一番輝いている一瞬の表情を見事にとらえていて迫力があった。今までのどんな週刊誌やドラマやステージでも見た事が無かった素晴らしい表情が、美術館の壁に並んでいるのを見て、この立木義浩氏の凄さが素人の筆者にも判って嬉しかった。
 多分、写真家である前に、人物であろうが風景であろうが、被写体の持つ魅力をいち早く正確に見いだせる潜在的な能力が在るのだろう。これは写真撮影技術などよりはるかに重要な事だと思う。

 だから、表情を造る眼と口元に集中する意味でポートレートは化粧や色どりを見せないで済むモノクロが殆どなのだろうかとも思った。

 展覧会場の2Fではスナップ写真が山ほど展示されていたが、何ともまあ世界中を駆け足で回ったような幅広い撮影活動をされている方だと思った。やはり写真は数多く、少しでも多くシャッターを押すのが必須なのだという事だろう。勿論連写機能を使ってではなく・・・。

 此処で面白い事に気が付いた。2階の作品・スナップの多くが左下がりなのだ。水平線や地平線は勿論、ほとんどの画像が左がすこーし下がる傾向が在る。これは癖なのだろうか、意図的なモノなのだろうか。筆者が右下がりが癖なので思わずニヤッとした。水平を保とうと気を遣うほんの数秒補正してシャッターチャンスを逃す位なら、思ったそのままの瞬間を押さえたいという事なのだろう。トッププロの写真家さんにも癖というものがあるんだと思って妙に嬉しかった。

 同時に、展示作品としても水平補正しないという事は、トリミングも修正もしない撮ったままという事の裏返しだろうと思った。
 最近のアマチュアカメラマンですら、コンテストに出す作品にブラシ習性やトリミングを行うのに、この立木さんが誠実で真面目な写真家さんの様に思えた。まあこれは勝手な憶測なのだが・・・。

 いずれにせよ、かってのTV放送11PMに時々ゲストで出ていた頃の立木義浩氏の数多くの作品に接する事が出来て大変勉強になった一日だった。

 出口に図録だの写真集のようなものもあったが、自分が感銘を受けた作品が入っているものがほとんど見当たらなかったので、どれも手に入れなかった。展示されている作品をしっかりと目に焼き付けた方が良いと思う。だから会期中必ずもう一度行こうと思ったのだ。

 ご参考: https://oceans.tokyo.jp/lifestyle/2019-0523-6 








守備範囲の広さは相当広い写真家かも知れない。これらの作品を網羅した写真集は何処にも無い。つべこべ言わずに、とにかく観に行く事だ。