高尾山へ登る方など、アウトドア志向高齢者の多くは最近mont-bell(=モンベル1975~)のウエアなりギアで身を固めている人が多いようだ。今回の高尾山登山で実際見てそう思った。
1970~80年頃はMade in USAのSierra Designs,The North Face, L.L.Bean, Camp7, Callman, Eddie Baur,などが殆どだったが、最近は国産のモンベルが非常に多い。やはりモンベルショップ・専門店が都内繁華街・人気エリアのあちこちに出来たからだろうか。
女性の高齢者には、Colombia,Patagoniaなどもファンが多いようだ。筆者がVANに在籍していた1978年までの頃は、読売新聞社が出したムック本”SKI LIFE”や”Made in USA”などで米国西海岸の文化風俗ファッションの情報があっという間に世に広まり、1977年に創刊されたマガジンハウスの雑誌ポパイで月に2回この手の情報が若者に広まった。
これに乗じて店舗展開をしたBEAMSやSHIPSが情報誌に乗ったファッション商品を即店頭に並べたものだから、企画から完成(=店頭陳列)販売まで10か月以上もかかるVANの生産サイクルは話題商品のトレンドに追いつかず、倒産の憂き目にあった。
一時瞬間的に流行ったカナディアン・ネイティブの未脱脂カウチンセーターなどは、ポパイの見開きに載ってから半年の命だったが、VANがそれを商品化して世に出せたのは1年後でもうトレンドは終わっていた。
一方で時代が経つとともに、婦人画報社の月刊誌メンズクラブのようなファッションの教科書が廃れ、消費者が自分の好みとセンス表現力でコーディネートを色々考える脳力が徐々になくなり、店頭のボディにそのセレクトショップでコーディネイトしたモデルを置くと、「これこのままのスタイルで全部頂戴・・。」と買い求める事が増えた。これがセレクトショップの拡大につながる。
だから一世を風靡したVANが潰れたのは、ファッション情報誌ポパイと、BEAMSやSHIPSといったセレクトショップ型の店舗が増えた為だと確信する。
雑誌ポパイやその他ファッション重視の週刊誌などが、こぞってこの手の米国西海岸の文化風俗特集をし始めた1980年代初頭以降、その傾向は徐々に加速してゆく。
人々のファッション感覚・センスはどんどん低下し、芸能人や雑誌モデルのスタイル、21世紀に入るとお笑いタレントのそのままや、渋谷のカリスマ店員の真似する傾向が強くなった。
アウトドア衣料やギヤ(今回の場合はBAGやシューズ・ストック)に関しても、遭難した時に発見しやすいとか、ファッショナブルだとか自分が好きな色だとかで、ピンク、イエロー、スカイブルー、イエローグリーン、パープルなど今までのアウトドアカラーには無かった色合いが増えたのも1980年代だ。
21世紀に入り、タウンファッションのZARAやH&Mが登場して、今までなかったというか日本ではあまりセンスが良いとは言われてこなかった色合いや色合わせが広まった。これと同じ傾向がアウトドアの世界にも広がったようだ。
海のスポーツにおいてはブルー系の海で発見しやすい蛍光オレンジ、蛍光イエロー、蛍光ピンクなどがウインドサーフィンのセイルやウエットスーツに多用される。
かって日本海軍の戦闘機ゼロ戦の上部が濃いグリーン、下面(=腹部)がスカイブルーもしくはライトグレーに塗装されていたのはこの逆で、高高度を飛ぶ際は空に消えるスカイブルーや灰色、海面すれすれを飛ぶ際は海のブルーに溶け込み敵に発見され難くするためのモノだった。
少し話は飛んでしまったが、何に関しても色は重要なのだ。そんなカラフルになったアウトドアファッションに面白い話がある。
1980年代の事、我が母校・都立広尾高校山岳部の連中が長野県の五竜岳から白馬岳方面を縦走しようと、新宿駅から夜行に乗って1965年高校在学当時のように北アルプスを目指したという。
五竜遠見のゴンドラ(スキー場に存在した)も使わず、麓から登山し尾根を北に向かってしばらくした時、上下する尾根の向こうからヤッホー♪というザワツイタ声の塊と共にピンクやスカイブルー、イエローの軽登山ヤッケにスニーカーのようなトレッキングシューズを履いた女性の集団が現れたという。
黒部峡谷辺り程ではないが、北アルプスは南北に二列尾根が続いている。筆者はスキーの時以外尾根まで行ったことは無いが、たぶんコダマも返るような環境だったのだろう。
狭い尾根ですれ違う時、「ご苦労様ねぇ?山小屋の方々?」と言われてしまい、へたりこみそうになったという。彼らのスタイルは昔からあるチェック柄の綿ネルのシャツの腕をまくり、首には手ぬぐいタオルを巻き頭にも同じものを巻き、背に背負うのはカーキ色の綿のリュックサックなのだ。
要はクラシックな重装備なのだ。昔の山男そのままだったのだ。
ペロンペロンのナイロンのナップサックしか持たず、片手にペットボトルをもってワイワイお喋りをしながらよろめきつつ尾根を歩く女性陣とは全然違ったのだ。
2日前、筆者が高尾山で多くのすれ違う登山者たちに「〇〇ランは?蝶は?何処ですか?」と訊かれた状況と同じだったのではないだろうか?瞬間頭にそれが浮かんだ。
広尾高校山岳部OBたちは懐かしい高校時代の縦走をイメージして勇んで来たのだが、その女性集団のあまりの軽さ無防備さにすっかりショックを受けてしまい、白馬唐松岳から白馬池へ降りて、その日のうちに白馬駅から東京へ戻ることにしてしまったという。
アメリカ西海岸アウトドア・ファッションブームが始まったのが1977~78年頃。その頃はトートバッグならL.L.BEAN、ゴーアテックス、60/40素材のマウンテンジャケットならTHE NORTH FACEかシエラ・デザイン、3waybagならEddie Baurと専門分野が存在した。
これらをどのように組み合わせ、どのように着こなすかがファッションセンスの競い合いだった。
それが現在はガラス張りのモンベルSHOPへ行けば帽子からシューズ迄全て其処で揃ってしまう。便利だからそこで店員の言うまま全部買ってしまう、UNIQLOと何ら変わらない。あのIVY TRADのVANと同じ状況だ。時代は繰り返すのだろうか?
もう来年あたりは自分で考えず、生成系AIに訊いて買うのだろうか?あーヤダヤダ。