幾つもある巣穴十数か所の中の一つが生きている、つまり現在進行形で使われていると確信したのが5月23日。早速翌24日早朝3:30から90mの距離に停めた車の中から迷彩ブラインド越しに巣穴の様子を伺った。さすがに5月と言えども朝3時半はまだ星空で真っ暗状態。車のナビの明かりが異様に明るいので慌ててヤッケで覆い隠した程。午前3時半に車の中で迷彩服の上下で何かをしている人を視たら普通は職務質問するだろう。駐車スペースから2車線の道路ごしに双眼鏡で一点を視続けているのも明らかに不信な行為だ。まだ車は30分に1台も通らない。
午前3時半と言うと何も物音がしないだろうと思ったら大間違いだった。もうホトトギスが鳴いている。鳴くと云う事は眼が見えるのだろう、凄い!4時になると少しモノが判別できるが既に上空を鷺の類が盛んに飛んで行く。午前4時40分になると、ヒヨドリ、カラス、スズメの類が一斉に鳴き出す。
ヤマセミの親の声が聴こえた最初は午前5時10分だった。これはその後観察を続けた8日間すべてこの時間だった。意外にヤマセミの出勤は遅いようだ。巣穴を見下ろせる樹上にいつの間にか親鳥が来ていて餌を咥えてまずキャッキャッとダブルで3回ほど鳴き、しばらくしてキャルルルルルと連続音で数回鳴いた。この辺りの時系列詳細レポートは秋に自費出版予定の「ヤマセミの生態レポート(仮称)」に掲載する。
そのうち餌を咥えて巣穴の正面でホバリングして戻る行為を3回ほど繰り返した。この状態が午前9時半過ぎまで続く。神保賢一路氏の「ヤマセミの暮らし」と言う本で学んだ巣立ちを促す「見せつけ給餌」の記述通りの行動なので、これは巣立ちが近いかも?と思ったのも当たり前だった。しかし、巣の入り口で留まっても餌を咥えたまま戻る行為を何度も繰り返し、そのうち餌を咥えないで巣の中に入り1分以上留まってから戻るパターンが3度ほど続いた。
衝撃の展開はそれからだった。オスの親鳥が何も持たずに数回巣穴を往復した時、巣穴から口を開けて攻撃するヘビらしきモノが一瞬見えた!これは目視の時はハッキリ判らなかったが動画を再生して初めて判った事。そうして親鳥が数回同じことを繰り返した後、ちょうど再度動画撮影のカメラののスイッチを入れた瞬間、巣穴から何か長い物がズルッとヤマセミと同時に落下した。それと同時に2羽のヤマセミが、今まで聴いたことが無いようなテンションでけたたましく鳴きながら上空を飛び回り、直ぐに尋常ではない事態を察した。直ぐにその場に行ってはいけないと思い、道路の向こう側に並ぶ街路樹の間から2羽の親を撮影すると、地上にヘビらしき長い物が落ちていて動かなかった。
2羽のヤマセミは盛んに急降下攻撃をしている様だった。5分ほど大騒ぎが在って、静かになったのでそのヘビらしきモノの傍に行ってみたら、またしても2m弱の青大将で、明らかに何かを呑んで腹が膨らんでいた。そうしてその付近はヤマセミに突かれたらしく血だらけになっている。頭は裏返っていて上下の顎がずれていた。10m程の高さから落下した際に打ち所が悪かったのだろうか?
殆ど動かないので仮死状態だろう、呑んだモノを確認しようと、コンビニの大きなレジ袋に青大将を入れて、地元の猟師さんの家に運び、ヤマセミの雛か否かを確認する意味で解体してもらう事にした。しかし猟師さんは留守だったので、自分でカッターを用いて中身を取りだしたが、やはり巣立ち直前のヤマセミの雛だった。体長37cm充分巣立ちできる大きさだった。
ヘビをレジ袋に入れて持ち去る際に後ろを振り返ったら、70m位離れた木の上に2羽揃った親鳥がジーッとこちらを視ていた。同時に巣穴からヒナの鳴き声が聴こえていたが、親鳥の手前警戒されないように巣穴は観ないようにして、立ち止まらず早足で立ち去った。
雌の見せかけ給餌で異変に気が付いたのか、この日初めて雄が給餌に向かう。なお、営巣中の巣穴自体はこの画面には写っていない。
数回巣穴に入り様子見をした後、再度巣穴に近寄った途端、巣穴から口を開けて威嚇する青大将に慌てて身を翻し退避するヤマセミ(動画切出し)
しばらくして、巣の様子を見に行った雌とともに落下する青大将(動画切出し)。親が身を挺して脚かどこかを噛ませて一緒に巣穴から引きずり落としたような気がするが定かでは無い。
10m下の地上に叩きつけられた青大将を尋常ではない鳴き声で攻撃する二羽の親鳥。
雛が呑まれた事を判っているのだろう、親の嘆く声がこだましていた、雌親。
雄の親も鳴き止まず、いつまでも嘆いて居る様だった。
無残な頭は画面からはカットするが、呑まれた雛のあたりを盛んに親鳥が突いたと思われる。巣穴の中で相当な攻防が在ったものと推察する。
解体してみるとヤマセミの雛は37cmまで育っていた。この後、最初の1羽はこの7日後巣立ったのだが、本来は其れより前に巣立つはずだった雛のような気がする。青大将にしても生きていく為当然の捕食行為なのだが、今回は残念な結果になってしまったようだ。
親が巣を放棄するのではないかと心配したが、3時間後になって給餌を再開した雄親を観て安心。引き続き翌日からの観察を続けた。この後さらに不慮の事故で1羽のヒナが淘汰されてしまう。自然界は何と苛酷な事か今回身に凍みて感じた次第。