2016年7月22日金曜日

アカショウビン生態観察プロジェクト その1. Ruddy Kingfisher ecological observation project Vol.1

 アカショウビンは奄美の黒糖焼酎「奄美の杜」のラベルにも使用されている、栃木県生まれで奄美の自然を描いた画家・田中一村が好んで描いた南洋の野鳥だ。夏季日本各地に飛来し繁殖している。
町田酒造の黒糖焼酎「奄美の杜」筆者は飲めないので味は・・・。 HPより

 野鳥愛好家、特に野鳥撮影ファンは血眼になって探し求め、その燃えるような姿を撮影し仲間に自慢する事をいつも夢見ているという。中でも団塊世代の競争心の強い連中は、アカショウビンを撮っていないと仲間から一人前と認めてもらえないなどと信じている馬鹿者も多いという。これはアカショウビンを撮った者が、まだ撮れていない仲間に対し自慢しまくり、優越感を感ずるという嫌らしい現状が有るようだ。
 これではまるで、ライオンを一頭倒さないと一人前の男として認められなかった昔のケニヤのマサイ族の様ではないか?
人吉球磨エリアで、今回プロジェクト撮影による完全自然体のアカショウビン。

 人吉でヤマセミの生態観察を2010年から続けて約7年が経ち、大学へ提出するヤマセミの生態研究・詳細画像データと、人吉での人間との共存・共創研究もほぼまとまって来た昨年あたりから、このアカショウビンの声が人吉盆地のあちこちで聴こえる事が気になっていた。昨年など住宅街の傍の崖の上から2羽の声が交互に聴こえ、地元の方がビデオに収録されたのを見せて頂いた事すらあった。

 ヤマセミは留鳥で、しかも縄張りが非常にシビアに確立している野鳥なのでどこ何処にはどういうヤマセミが居るか、ほぼ人吉エリアであれば繁殖営巣場所を含めて生息地図が出来上がっている。過去6年間の年ごとにどのファミリーに幼鳥が何羽巣立ったかのデータも整備できた。

 しかし同族のアカショウビンが人吉エリアでこれだけ声が聴こえる割には、その生態があまり良く判っていない事に気が付き、営巣状況その他ヤマセミとの差異を調査してみたいと思うようになったのが2013年の事だった。
 2014~2016年に人吉市郊外で確認したアカショウビン鳴き声。これ以外さらに広域で20km範囲でこの倍ほどの鳴き声ポイントを確認出来ている。これを観た探索人が人吉に殺到するかもしれないが、1日や2日程度の探索では誰もその姿はおろかその鳴き声すら聴けないことは確実だ。アカショウビンはそれほど甘くはない。人吉のそれは信州の戸隠とは訳が違う。ちなみに今回の観察地点はこの地図の範囲をはるかに超えた遠隔地だ。

 ヤマセミ、カワセミがシラス等の柔らかめの土の壁に営巣するのに対し、アカショウビンは朽ち果て寸前の古木に洞を造り繁殖をする・・・程度の知識しかないため試みは非常に難しいと思われた。しかし、人吉エリアには超人的野鳥観察者が何人も居られる。この国内でも5本の指に入るであろう野鳥の野生生態全般に詳しいSさんに相談したところ、快く協力をして頂ける事に成った、2013年の事だ。

 このS氏は既に相当以前からアカショウビンに関しても観察経験をお持ちで、人吉盆地の何処にいつ頃行けばアカショウビンが居るか熟知していた。盆地のはずれの県境の奥山では、地元営林署の職員同様にアカショウビンだけではなく時にはヤマショウビンまで見つける程のベテランだ。

 野鳥の繁殖の障害にならない様に、少しも警戒心を与えない方法で生態観察をするシステムを常に考えておられる方だ。そういう事に関しては一般的な野鳥観察におけるルールマナーなどとは次元の違う慎重さで臨んでおられる。 自分も昔からほぼ同等の慎重さで野鳥に接してきた。
 彼はこの方面ではNHKの自然取材班スタッフ同等、あるいはそれ以上の知識・経験をお持ちだ。
黙々と湿度の高い原生林の斜面を登っていくS氏。山の中を1万歩ほど歩く。

 この方の協力を得ながら2013年から足掛け4年の歳月を経て、やっと今年7月18日を持って生態観察が終了するまでお付き合いいただいた。この大変な努力をされたS氏にこのブログを通じて強く感謝を捧げたい。

 さて、このアカショウビン生態観察プロジェクトを進めたいと思った理由には幾つかの思惑が在った。中でも主なものは次の2件。

①  メインで筆者が生態観察しているヤマセミと繁殖において具体的にどこ
   がどう異なるのか?比較しようにもあまりにデータ資料が無い為、自分で
   確認する事。これは相当学術的にはなるが、重要な比較だと思っている。

②  長野県戸隠森林公園でのアカショウビン撮影騒ぎを知り、誰でも簡単に
   アカショウビンを追い掛け撮影したい、行けば簡単に出来るんだろう?と
   いう誤った認識を是正するため、本来繁殖期のアカショウビンを観察する
   のには、実はこれほど注意を払い準備をしなければならないほど大変な
   のだ…という事実をこのブログで情報発信し認識してもらう。

 したがって、ただ単に「繁殖期の野鳥の営巣画像を撮るな、公開するな」と言う一般的なルール・マナーを盾に、すべての野鳥研究者の行為行動を、単なる野鳥撮影の人々と同一視し、ろくに良く理解もせず鬼の首を取ったように論っては困る。

 更にはその研究行為を、ただただ自慢できる写真を撮りたいがために無茶をする野鳥カメラマンと同一視し、公の場で非難するような輩、同時に自分自身で直接事実も確かめず、理解もせず非難を始めた仲間に雷同して「そうだそうだ!」と声を荒らげる輩達とは根本的に野鳥に対する接し方、理念が違うのだ。野鳥の団体も最近は声のデカい独善的な一部のメンバーの影響で探鳥会なども熱心なレギュラーが減って来て「一部のお仲間」だけの寂しい展開に成る所が多いと聞く。自浄作用は働かないモノなのだろうか?

 話を戻して・・・。

 実際に人吉という独特の環境下で何故アカショウビンが多いのかという理由も、最近それなりに判って来た。一番の理由はその盆地ならではの湿気だ。人吉は通年で三日に一度は川霧・濃霧に朝夕覆われる。冬季においてはほぼ毎朝だ。梅雨の時期も雨上がりの霧が朝夕を問わず非常に多い。

とにかく、すぐ霧が出る、冬季はまず朝晴れても日の出が見える事は少ない。

 秋に収穫した柿を硫黄で燻煙せず天日で干しただけでは、良い感じに柿色が残った干し柿が出来ないという事実がこの事を裏付けている。

 此の湿気が、南洋ジャングルと同じレベルの湿度を保っていると視ている。疑うのであれば、実際人吉に年間30日づつ4~5年滞在してみると良い。そうして山に入って樹木を観るが良い。ほとんどの古木は苔むしている。渓流の岩にも苔が覆っている。アカショウビンで有名になってしまった信州戸隠の森林公園も東北のブナ林も湿度が通年で非常に高いエリアだ。乾燥地帯にはアカショウビンは来ない。カエルや沢蟹が沢山住める湿度の高い環境こそアカショウビンが繁殖するに適したエリアなのだ。

梅雨時であるという事もあるが、山の樹木は殆ど苔で覆われている。

これらの基礎知識を基にS氏が今年営巣樹木を発見したのが6月初旬だった。これ以降3度の訪問を重ね、各プロセスの繁殖行動を確認した。通算では6回ほど山に登ったが、S氏はその数倍登って無人観察機器を設置、長時間無人で観察録画できるシステムを使って観察を重ねていた。

この続きは数回に分けてアップしたい。