数年前、巣立ちを観察した市内の場所とは全然違い、人気のない球磨川支流の奥だが、駐車スペースからは7~80m離れている。正面からはとてもではないが観察できず、大きなシラスの崖にほぼ平行の位置からしか観察が出来ない。車を停めた場所も前は溝後ろは下がれない苦しい場所だ。
それでも、06:30に多分最初の給餌に現れた親鳥が連続鳴き声でヒナに給餌の合図を送った後、巣穴に消えた時には「まさか初日から?」と驚いたものだ。これも矢黒神社の御利益だろう、しかし今回はお参りする前にヤマセミに出逢えてしまった。何という幸運?
おおよその繁殖期のタイミングに関しては前回4月、前々回2月の下準備時に予測は立てていたし、毎日送って下さる地元の方々からのヤマセミ情報メールで、ある程度予測できていたのは間違いない。人吉の方々には感謝してもし切れないほどの恩恵を頂いている。
時折、物凄い突風と土砂降りの雨、昼過ぎには豪雨と雷という今まで人吉に来てもここまでの悪天候はそうそうなかったと思うが、ヤマセミの繁殖は力強かった。土砂降りの雨の中、どれだけ枝が揺れても親鳥は巣穴を監視し続けていた。こちらは車の中からだがヤマセミは豪雨・吹きっさらしの木の枝だ。幾ら水中にダイブする動物だとは言え、頭が下がる。
結局、朝06:00~12:30までの正味6時間観察をして得られた給餌記録その他は次の通りとなっている。
06:30 ♂給餌 巣穴滞在時間8秒
09:00 ♂給餌 巣穴滞在時間12秒
♀飛翔監視・カラス飛来を受けて
♀監視 距離70mの木の枝
10:30 ♂給餌 巣穴滞在時間8秒
♀監視 この後12:30まで同じ木の枝から動かず
12:30 ♀監視 〃 10:30以降給餌気配無いので初日観察終了
この土砂降りで濁流となった球磨川支流部だが、何処で採餌をするのだろう?
いつもの球磨川本流の魚などとは違う色の魚を咥えているようだ。
長くて12秒ほどの巣穴滞在なので、まだヒナはそう大きく育っていないような気がする。
午前中3回の給餌という事はヒナは3羽なのか?それとも魚を獲りにくい天候なのでヒナ自体はもう少し多くいるのか?観察を続ければもうすぐわかるだろう。
途中で向きを変え20m以上の崖を降りるヤマセミ
巣穴の見える位置でのメスの監視行動は誠に頭の下がる思いだった。巣穴と筆者が観察する車と、巣穴を監視する親鳥の留まる木の枝はそれぞれ正三角形の位置に存在する。
野鳥団体のメンバーの中には、野鳥の繁殖中の写真は無条件で撮るな、ブログなどで公開するなと声高に上から目線で言う者もいるようだ。しかし、過去において数回ヤマセミの営巣~巣立ちを観察して、ただの一度もヤマセミの邪魔をした事は無いし、ヤマセミが繁殖を放棄する様な事もなかった。ブログでご紹介してもその場所を特定され、誰かが其処を訪れたこともない。撮影観察の距離は70m以上、なおかつ車の中からと自分でルールを決めている。
自然の営みを観察し記録を付け、まだ判らない事だらけの生態(ヤマセミに関する詳細文献は我が国には未だに存在しない)を研究することは決して間違ってはいないと思う。この成果は自分の所属する共創学会とバードリサーチ、並びに山階鳥類研究所に報告レポート・記録写真データ出版物を提出する予定。