2016年4月11日月曜日

団塊世代が考える観光活性化「八代市の場合・その6」

 世の中にハードとソフトという言葉が多用されるようになったのは、パソコンが一般の人々に普及し始めてからだろう。マイクロソフト社がウインドウズ95を発表し、窓枠が空を飛んでいるようなカラフルな箱を東京の秋葉原に列をなして買い求める若者達をニュースが報道し始めてからだと思う。

 結構存在感のある箱なのに、持ってみるとめちゃくちゃ軽く、中に入っているのはCD・ROMの円盤と説明書だけで、後は殆ど空気だけだった。色々な意味でそれまでの一般人の常識をひっくり返すようなパッケージだった。

 しかし、このニュースは、当時の一般の人間たちに、それまでのごく一部の理工系で人に先駆けてコンピューターを勉強し理解していた人たちの特権的領域だと思われていたITの世界を、意識・理解・体験させる意味で非常に大きな意味を持っていたと言って良い。

 メディアの編集者・ライターあたりがその競争意識も加担して、こぞってパソコンの世界に没頭し始めたのもある意味この頃からだろう。週刊アスキーなど判りやすい雑誌を小脇に抱え、それまで一部の人間にしか通用していなかった、マウスだのキーだの、あるいはビットだのCPU、ハードディスク、メモリーだの専門用語が飛び交ったのもこの頃だ。

 なんだ?メモリーって?昔流行ったヒット曲の『渚のメモリー』だとかジョニー・ソマーズの『素敵なメモリー』のメモリーとどこか違うのか?などという疑問が筆者の普段の生活に蔓延り始めたのもこの頃だ。自分も毎週週刊アスキーを買い込んで毎日読み漁りIT用語を学んだ頃、通勤電車の中で話すパソコンオタク(まだこの当時はパソコンを使える人種を世間ではこう呼んでいた)の若者のしゃべっている意味が判り、別の次元へ入った感じがしたものだ。


 情報と話題性に貪欲な芸能界で真っ先にこれに飛びついたのが桂文珍と井上陽水だろう。桂文珍は「およね婆シリーズ」の集大成「老婆の休日」で既に「私ら無能な窓際族にパソコンさせてウインドウズも無いやろう?」と言って笑いを取った。一方で井上陽水と奥田民生は『パフィ』という久しぶりの女性デュオに「アジアの純真」という曲でデビューさせ「♪マウスだってキーになって♬」と歌わせている。聴いている方は一体何なんだ?この歌詞はと思いつつ大ヒットになった。

 世の中が電脳化し始めた1990年代後半から、メディアにこのIT用語が洪水のように押し寄せ、IT用語・専門用語でもないのにやたら横文字が日常会話に使うような風潮がやって来た。

 イノベーションだの、ソリューションだの、インプルーブだの横文字が世の中に溢れ始めた。その主犯が広告代理店の特にマーケティング関係の人間達と官僚・役人達だ。何か新しい事、レベルの高い事の様に思わせる狡い話法だろう。 新しい切り口・新機軸(=イノベーション)、問題解決・課題解決・お助け(=ソリューション)、改良・改善(=インプルーブ)と言えば済むのにどこか新しい事と思わるために相手を煙に巻く嫌らしい方法だ。

 基本的にこの2種類の人間たちは「常に自分を賢く見せ、相手より上の立場で居たい」「何かあっても責任は取らず言い逃れしたい」と考えているリスクを負わない無責任な気風があるので、やたら横文字を使いたがる。しかも相手がその横文字を知らないで理解に苦しむと「何?ご存じない?今や常識でしょ?」と言って得意がる。自分自身広告代理店に居てとてもこれが嫌だった。

 逆に言えば、「その横文字をすべて日本語にして文章を造れ、あるいは説明をせよ!」と言えばたちどころに黙ってしまう面白さもある。幾度かそういう注文を付けて中身のないプレゼンテーション(=提案説明)の化けの皮を剥がしたこともあるが、物凄く嫌われた。

 その横文字の「ソフトとハード」がこの回の八代の観光に関するお話だった。

熊日新聞に掲載したタイアップ記事の第6弾


 旅に出る方の期待と、旅人を受ける側の思惑がきちんと合致して居れば、観光活性化にはそれほど苦労しないだろう。例えばスキー場の宿泊関係者は良いスキー(ゲレンデ)環境と温泉くらいあれば喜んでスキー客に来てもらえる。あるいは其処しか泊まる所が無いというような大自然の中の山小屋や北海道の突端の様な最果ての地の宿であれば、需要と供給の関係上観光活性化に関しては選択肢も少ないだろう。競争相手がいない点である意味悩まないで済む話だ。

 しかし、いわゆる昔から一般的な観光地・温泉地など観光客の落とすお金で成り立ってきたエリアにおいての観光活性化となると事は簡単ではない。来てくれる観光客達の「ニーズと期待」を十分に理解しないと対策を講じられない点で複雑で困難なのだ。

 いわゆる昔から栄えてきた有名な老舗観光地はここ数十年前から勝ち組・負け組に大きく分かれて来ている。簡単に言ってしまえばきちんとマーケティング調査を行い己の立ち位置を認識理解し、己の魅力を分析し「勝つ」にはどうしたら良いかを考え対策を練った所が勝ち組。
 昔の栄光今何処?で「あの時のブームは今度いつ来るのだろう?」と思いながら、何もしないところは負け組になって居る。

 観光客は我が儘なものだ。受け手が考えるほど簡単ではなく、単純にお金の詰まった財布をもってバスに乗って来てくれるような団体お客をどれだけ呼び込めるかばかりを考えているようでは先は無いと思った方が良い。
 
 せっかく雰囲気が良く話題のスキーリゾートに彼女をあの手この手でやっと口説いて連れて来て、楽しい数日間を過ごそうと思った若いカップルが、リゾートのレストラン棟に行こうとエレベーターに乗って一階に降りドアが開いた瞬間視たものは?ワイワイ走り回るジャージ姿の小学生の団体客だった。翌日2日目以降をキャンセルしてさっさと宿を後にした・・・・という話を実際に何度聴いたことか。

 観光活性化の詳しい話はまだまだこの後続く。