2016年3月26日土曜日

団塊世代が考える観光活性化「八代市の場合・その1」

 いよいよ桜のシーズン到来だ!近所の桜では飽き足らず「京都に行こう!」のキャンペーンに尻を押されて京都観光に行く方も多いだろう。団塊の世代で時間と資金に多少の余裕がある方々であればなおさらの事だろう。これにこの世代特有の「優越感競争」がさらに火に油を注ぐが如く後押しをして、季節毎の広告CFがテレビに出る度に思わず腰が浮くのも良く判る。

 しかし、1000年もの昔から観光地だった「都・京都」と違って、全国の地方都市は未だに観光活性化に苦労しているところが多い事は、長い広告代理店勤務で、嫌というほど実感している。大手広告代理店勤務中25年間の間に全国各地6か所で、この観光活性化に関して携わる機会があったが「うまくいった、大成功だ・・・・。」と胸を張って言える所は残念ながら殆ど無い。


 九州圏内3か所(熊本県・長崎県)、本州で3か所観光活性化に携った。残念ながら北海道と四国では機会が無かった。この中で一番詳細にわたって行えたのが、筆者が幼少期数年間(太田郷小学校⇒八代二中)住んでいた熊本県八代市の観光活性化だ。

 2004年3月13日JR九州新幹線部分開通の1年前、八代市役所・商政観光課からの依頼で参画したプロジェクトだった。同じ団塊世代・同学年の課長(八代一中)が居て、同じ年代ならではの意思疎通の良さと、スムーズな進行で思いのほか大きな効果と、幅広い活動が出来たのを記憶している。

 これからしばらくは、週末土日に限って「団塊世代の考える観光活性化」シリーズを掲載しようと思う。一般的に、ただ消費者として気に入った場所に旅に行くだけではなく、自分が昔育った、あるいは自分に縁のある、思い入れのある地域に関する観光活性化について、「アイディア提供」など行えば、少しは「我が故郷」の役に立つのではないだろうか?

 基本的にその場にずーっと住んでいる者は、その場所の魅力は意外にに判らないものだ。外側から見るからこそ、初めて行くからこそ他との比較で長所短所が判るのだ。

 例えば、憧れのハワイに初めて行ったとしよう。ほとんどの方はダイアモンドヘッドを見て感動し、ハイビスカスの赤い花を見て感動するだろう?アメリカのTVドラマ「ハワイアン・アイ」やエルビス・プレスリーのレコード「ブルーハワイ」を想い出すかもしれない。あるいはハイビスカスの花を見て日野てる子を想い出すかもしれない。さっそくダイアモンドヘッドをバックに記念撮影するだろう、もちろん首に花で造ったレイを掛け、手にはハイビスカスの赤い花をもって・・・。

シェラトン・ワイキキの部屋からの眺め 2012年撮影。ダイアモンドヘッドの先端右端に建つコロニー・サーフホテルがTVシリーズ・ハワイアン・アイの舞台。1Fミッシェルズは超有名レストラン。

ハワイと言えば「レイ」とコバルトブルーの海 2012年撮影

エルビス・プレスリー「映画ブルー・ハワイ・サウンドトラック盤」 中学時代購入。

しかし、ホノルルに住んでいる人は、ほぼ間違いなくそういうことはしない。なぜなら外から来た観光客が感動するモノは、そこに住んでいる者にとって「当たり前、ごく普段の景色、日常の風景」だからだ。

 熊本市内に住んでいる方が、毎日見て通勤する熊本城にいちいち感動して記念写真を撮ろうとしないのと一緒だ。だから、そこで生活している者には観光活性化の根本「旅行者の感動は何か?」を同次元で感じられないのだ。従って観光活性化を地元の人間オンリーで、組織や「おもてなし隊」のようなボランティア集団をいくら作っても、その行為は新聞には載るものの、観光活性化自体成功しないのは、中身が伴わないのとこの原点が忘れられているからだろうと思う。

 少し厳しい言い方になるが、その意味からすれば、その土地に育ち、県外での生活経験の無い者が役人になって観光活性化を携る役付きになっても、効果的な活動は出来ないという事だ。外から己の故郷を見てこそ、地元では気が付かない活性化策が立案できるのだ。

 此処に2004年の2月~3月にかけて筆者が八代市役所の依頼で執筆(画像含む)し、熊本日日新聞に20回連載した「八代市観光活性化」に関する新聞記事がある。これを順を追って掲載しながら、なぜ当時このような内容を掲載したのか、その後八代市がどうなったか等を検証してみたい。当時、この記事には大きな反響があったと後から聞かされ大変納得した覚えがある。

まずは連載第1号から・・・。


 横長の連載タイアップ記事は基本的に熊日新聞の最下段に掲載された。八代市の表記と市の鳥カワセミをあしらった題字は結構評判が良かったと記憶している。まだ筆者自身野鳥には興味がなかった頃だが、心のどこかで意識していたのかもしれない。

 この第1弾で、八代市の方々は相当なショックを受けることになる。何故なら地元で全国区で名が通っているとばかり思っていた「我が郷土の名物・名産」が殆ど認知されていないことを知るのだ。

 更に、とてもこの連載記事には書けなかった怖い事実が在ったのだ。それは東京・大阪・広島・北九州・福岡の5都市で対面式の本格的な街頭アンケートを行った結果、「八代市」と紙に大きく書いて読んでもらったところ「やつしろし」と読めた人の割合が異様に低かったのだ。どこのエリアにおいても30%前後しか正確に読めず、残りの60%以上ほとんどが「やしろし」と読んだのだった。八代亜紀さんのイメージなのだろう。

 決して寒河江市(さがえ)だの姶良市(あいら)といった難読の市名ではないが、地元でないとまず判らないのかもしれない。考えてみれば、関東では天草にしても「テングサ」と読む人は多い。平成の大合併でできた茨城県の我が本籍地も「行方市」と書いて「なめがたし」と読むが、そう読む人は少ない。「ゆくえし」と読んでしまうのが普通らしい。

 この事実は当時の八代市長・中島隆利さんも相当ショックだったようで、これは市にとっても由々しき事なれば、新聞への公表掲載は見合わせようという事になった。全国各地における自分の市の名前の認知度があまりに低いという事は、市のPR活動不足の証明になってしまうからだろう。
 逆の意味でこの事により市のPR活動に力を入れなければ大変な事になるという事を、当時の商政観光課のスタッフ全員が実感したのだろうと推察する。1,300名のアンケートデータがそのまま手元にあったので一つの「嘘」も「やらせ」もない事は全員が認識していた。

以下は#1初日の掲載記事原稿(原文まま)

 #1.八代市は九州新幹線開業(部分開通)を機に新しい観光活性化活動を開始する。
 
 昨年十一月八代市は東京・大阪・広島・北九州・福岡の各都市で1300人に及ぶ観光マーケティング・アンケート調査を行った。
これは九州新幹線新八代駅開業に伴い今後八代市を訪れるだろうと思われる観光旅行客が八代市に対し現在どのようなイメージと期待を持っているのかを把握し、より効果的な観光客誘致活動を行おうと実施したものであった。
 
 その結果の一つの例が右の表であった。1300人中の300名以上が上げた八代亜紀さんは別格として第2位の「公害・水俣病」、第3位の「鶴」はどのように理解して良いのか結果を目の前にしたとき正直呆然とせざるを得なかった。
 当然ある程度知られていると思っていた「鮎」「トマト」「くま川祭り」「山頭火」を上げた者が1300人中一人もいなかった事もショックであった。
 
 この調査は八代市が観光活性化するためには相当な知恵を絞り官民一体になって努力しなければならない事を示している。
 現在、全国の各自治体は如何に観光旅行客を地元に誘致しようか必死になって知恵を絞っている、勿論熊本県内も例外ではない。
 
 八代市が新幹線開通・新八代駅開業で具体的にどのような恩恵を得る事が出来るのか、何もしないで事の成り行きを見守っているだけでは決して何も起こらない事だけは確か。
 
 そこで現在八代市が観光活性化に関して進めようとしている事、官民一体になって旅行者を我が八代市に誘致する為のヒントとは、そして観光活性化の良い影響を関連産業がより活性化するために連動させるにはどのようにしたら良いか等、今日から20回のシリーズで連載を行う事になった