特定のヤマセミが筆者の事を認識し撮影中多少近づいてきたりする事には、多少疑いつつも慣れたのだが、猛禽類がこちらに真っ直ぐ向かってファインダーの中で迫ってくるなどという経験は、未だかって無かった事だ。
良くカメラの広告でレンズに迫って来るフクロウや、NHKの「ワイルドライフ」などでカメラの脇に獲物を置いておいて自動録画でその餌を獲りに来る猛禽類を撮影したりするのには、それなりの仕掛けと準備在っての事と判っている。
しかし、大自然の中で実際に何の準備や仕掛けもしていないのに700mmの超望遠で撮影中にそのレンズめがけて猛禽類が迫ってきたらビビるだろう?今回実際にそういう事が起きたのでご紹介!
場所は八代市の球磨川河口部左岸、鼠蔵の対岸でクロツラヘラサギの世界的権威・高野茂樹博士に「新庄さんオオタカが居るよ!」と連絡を頂いたところから話は始まる。
この日も熊本空港からダイレクトに、球磨川河口部で野鳥調査観察をされている高野先生の元へはせ参じたのだった。
左岸堤防から直線距離で200m離れた川の真ん中に、恵比寿金毘羅という祠が建っている中州小島が存在する。
その小島の祠の少し左下にオオタカがとまってこちらを見ていたので、500mmレンズに1.4倍テレコンを付けて覗いてみた。5分程その状態で数カット撮影した所、いきなりオオタカが飛び立ち、まっすぐこちらへ向かって来た。
球磨川の川面すれすれをスピードを上げつつ飛んでくるのだ。どうせ、直ぐ向きを変えて飛び去るだろうとタカをくくっていた。そうしたらシャレにも成らない事態になったのだ。
700mmの超望遠の最小撮影可能距離は多分5m位だろうと思うのだが、その距離寸前までオオタカは迫り、最後の一瞬羽根を全部開いて制御しブレーキを掛け、筆者の直前でUターンをして飛び去って行ったのだ!
多分200m先から大口径のカメラレンズのチラツキが気に障ったのか、はたまたそのレンズ越しに見えたこちらの目つきが気に入らなかったのか?映画で観るスナイパー同士の打ち合いの様な不思議な経験だった。
勿論、まさかそこまで迫って来るとは思いもよらないので、ピンは来ていない最後のほうなど、どうしようもないのだがその迫力だけは理解して頂けよう。猛禽類をメインで撮影されているベテランの方には笑われてしまうだろう経験だが・・・。
ジーッとこちらを見ているのは判っていた。
ゆっくりと尻尾を上げて飛び立つ様子は予測できた。
この辺りまでは、ほぅ、珍しいオオタカの飛翔の正面姿が撮れるぞ・・・程度の気持ちだった。
この辺りで、えっ?真っ直ぐ来るってどういう事?と思い始めていた。
アオサギも結構ビビっていた様だ。
200mを飛んでくる間によそ見をしたのはこの一瞬だけだった。
700mmでは、こういう場合になれていない筆者にとってはどうしようもない最後の一瞬だった。来るのが判っていたらズームレンズにするのだった。
去っていく方角は鼠蔵の山の方向で、最終的には頂上を越えて逆側へ降りた所まで追えた。
見送って、暫くボー然状態だったが、何でまっすぐ飛んでくるって言ってくれないのだ!判っていればズームレンズで最後の瞬間は撮れただろうに…と悔やんだが、大自然相手に「タラ・れば」は無いというのを痛感させられた良い経験だった。