肥薩線は八代ー人吉間を球磨川に沿って走るため「川線」、人吉から吉松方面を「山線」と分けて呼んでいる。
いずれも昔の鉄道施設が数多く残っているので歴史的鉄道資産など文化財に指定されているようだが、それだけ使用頻度が低かったので残っているのだという見方もある。現在世界遺産登録へ向け活動が進んでいるようだ。
8年前から人吉盆地内中心に、球磨川に掛かる第3鉄橋附近でもヤマセミを観察し続けてきたが、その鉄橋に数多くの野鳥が羽根休めをしていて、列車が来る都度ワーッと飛び立っていたのを朝から幾度も目撃していた。
ハト、ヤマセミ、ササゴイ、などが多いのだが、今回早朝から観察していて、今までよりもやたら多く第3鉄橋付近で活動するヤマセミが多いと感じていた。ひょっとしてヤマセミは鉄道がお好き?
今回は鉄橋絡みで撮影するヤマセミが非常に多いのだ。しかし暫くしてその謎が解けた。実は肥薩線の山線の運行本数が昨年同時期より減ったのだ。朝7時頃の上下各一本が無くなり、最初の上下が9時過ぎに成ったのだ。道理で朝静かな訳だ。
ヤマセミはそういう環境の変化に非常に敏感だ。子育てに都合の良い早朝静かになった第3鉄橋で子供の教育をしようって訳だ。
日の出から朝9時30分まで1本も列車の通らない鉄橋!これ以上幼鳥がダイブの練習に最適な場所があるだろうか?今回、赤茶色の鉄橋からどれだけのダイブを撮影したか・・・。
今はもう子育てがバラけた為、ヤマセミも鉄橋に近寄ってこないが、来年の春先、再度確認のため観察をしてみようと思う。
という事で、決してヤマセミは鉄道がお好きな訳では無かった様だ。
肥薩線(人吉ー吉松間)山線の1日の本数はたったこれだけしかない。2004年頃の上下10本から6本に減った。鈍行の登りは朝1本、下りは夕方1本だけ?後は観光客がメインの特急だ。逆に言えば車がそれだけ普及・発達したという事だろう。この沿線は完全にアメリカ大陸と同じクルマ文化という事だ。
一方で、東京の中央線の三鷹ー中野間の本数はご覧の通り、信じられぬほどの過密ダイヤだ。電車の先頭・運転席の後ろから前方を見れば一本前の電車の後ろ姿が見える程だ。
これは逆に東京の人間が車を手放し始めている一つの証拠でもある。 スマホなど情報端末に出費がかさみ、車の維持費と駐車スペースの枯渇、ガソリン代の高騰で大都会の若者の車離れが急速に進んでいる現在、日本の中央と地方の交通事情はこれほど乖離しつつあるのだ。
実はこれが、回りまわってヤマセミの生息環境にほんの少し良い兆しとなっているというのも非常に面白い気がする。
球磨川の鉄橋で幼鳥を見守る親鳥と思われる2羽。
叫んでいるのではなく、ペリットを出そうとしているようだ。
列車が来なければ最高の場所なのだろう。
しかし列車が来れば逃げるしかない。でも朝9時半近くに成らないと列車は来ないのだ。だから今年はやたら多かったというのがその理由。
勇気のある幼鳥は鉄橋のてっぺんに陣取ってみたりしている。
一時10日間程の間は此処を子育てのベースにするヤマセミファミリーの朝の2時間だけ集合場所だった。しかしもう今はいない。
幼鳥のダイブには最適だったらしい、真ん中の橋脚。
ヤマセミお気に入りの枝の向こうに大人気のKura倉Cafeが見えている。
人吉在住の方々も、それぞれのカメラでヤマセミ観察・撮影に勤しんでおられる。
コンパクト・デジタルカメラでも充分狙える人吉のヤマセミ環境は本当に素晴らしい!人吉市の鳥に追加指定される理由がこれでお判りだろう。
しかし、何度もお断りしておくが、こういう状況は年に一度ほんの2週間ほどの間、しかも早朝2~3時間の間だけなのだ。行けばいつでもこの状態という訳ではない。
ヤツガシラやキレンジャク、ヒレンジャクの飛来と同じで、毎年必ず同じ所でヤマセミ幼鳥教育に出遭えるという事ではない事を知っておいて頂きたい。
今年の人吉界隈のヤマセミ繁殖も、4カ所のポイントで全然一羽の姿すら見えない場所もある。ヤマセミの生態観察は小まめな観察と現場チェックが必要なのだ。