例えばヤマセミが営巣しそうな崖はヤマセミの生態観察を続けていると、自ずからそのポイントが見えてくる。すべてのシラス壁、砂岩の壁がヤマセミ、カワセミにとって最高の営巣場所に成るとは限らない。
人吉エリアのシラス壁を探してみると、面白い程ヤマセミの巣穴とカワセミの巣穴が並んで開いていたりする。今はもう使われていない過去の巣穴の痕跡を視ても似た様な場所に2~3か所まとまって開いていたりする。
しかしアカショウビンは朽ちた古木に洞を開ける為、並んで開けるという訳にはいかない。このアカショウビンの営巣場所を探すには幾つかのポイントが在るが、これはS氏によると企業秘密なので公開しない。
条件ポイントの主なモノは5つほどあるが、S氏は脳の中でそのすべての条件を満たす環境を原生林の中を歩くことで瞬時に発見できるという。
同時に営巣後のアカショウビン親鳥の行動、癖、嫌がる事、好む事を理解しているという。アカショウビンの身になって、今其処に在る場面で何をするだろう?を予測して観察体制・スケジュールを計画するのだそうだ。
今回の営巣ポイントへの道は厳しい。熊本県地方大雨の続いた今年の梅雨期、あちらこちらで小さな崖崩れが発生し、現場に登るのも天候と相談する毎日が続いた。
土砂崩れは山の上の方より麓の方が多かった。山奥はなかなか陽が当たらない鬱蒼とした樹木路で曇天や雨の場合は絶対にライトが必要だろう。
これだけ人里を離れれば、まず終日車は通らないとは思うが、一応乗って来た車を崖脇に寄せ、デジタル一眼カメラ、ハイビジョンVTRカメラ、ブラインド・ネットその他観察に必要な一式を持って道なき道を進む。S氏には見えても筆者にはまるで分らない山奥の自然の獣道。もう勘を頼りに自分なりのランドマークを記憶する。勿論携帯電話などは圏外だ。
ポイントに到着したら、暫くは様子を伺い、アカショウビンの動向を調べるのだが、当然人間よりアカショウビンの方が先に我々を見つけているはず。どんなに見つからない様にしたつもりでも間違いなく向こうの方が先に見つけこちらを監視観察していると思って間違いない。
どんなに住宅街で飛び回っているキジバトでも、隣の大学構内の森で出遭うと住宅街では考えられない距離で飛び去ってしまう。環境の変化に応じて警戒センサーのレベルを変えているのだろう。ましてや人間など居るはずもない山奥のポイント。アカショウビン側から見れば数百メートルでエリア侵入者の人間に気が付きジーっとして動かなくなる。しかし繁殖に影響が出るかというと、こんな事で繁殖を止める程自然界は弱くない。
現に、ここ数年のヤマセミも、今回のアカショウビンも最大の注意を払って観察しているので全て繁殖は成功している。繁殖中の巣穴にアオダイショウに入られて繁殖に障害が発生した事はあるが、人間が観察して危機感を感じたり嫌気がさして繁殖を止めたなどという事は無い。
今回の観察エリアは営巣樹を中心に半径70mの円を描く範囲だった。山の斜面の向きもあり、太陽を背に受けての観察ブラインド設置は非常に難しかった。此の苦労をものともしないS氏のエネルギーと意欲には全く脱帽する。
21日間車の中からヤマセミの繁殖を記録撮影した時とは異なり、山奥の何も無いエリアでの観察はブラインドの中では限界がある為、長時間記録用ハイビジョンビデオカメラによる無人動画収録で観察する事にした。
このハイビジョンVTRカメラは既に生産中止だが非常に高性能。無人で撮影するための設置アタッチメント、防水加工などはS氏開発の企業秘密。
上の設置図の上部無人カメラが此の設備の中。巣立ち間近には第2カメラポイントから巣立つ様子が無人カメラで収録できていた。
上の無人VTRに収録されたアカショウビン画像。精度の高い綺麗な画像は当ブログでは掲載しない。あくまで記録の説明証拠画像としての掲載にとどめたい。
巣立ち直前の画像は第2ポイントからの無人VTRカメラに収録された。
一番下の緑のブラインドの設置状況。
下のブラインドから撮影した静止画。アカショウビンの給餌フライト。
結果としては、その双方ともに成果が在り、試みは成功したと言って良い。ヤマセミと同族でありながら、その繁殖営巣行動は明らかに違っていた。これは観察して初めて判った事で、非常に満足の行く成果となっている。